「失礼しました」
重たいドアを閉める。
「んーっ!やっと終わりましたね兵長!!」
振り向けば何時も通りの兵長が、あぁ。と短い返事を返してくれた。
「これでひとまず休めるな」
ふぅ、と兵長は息を吐いた。
私は仕事が終わって嬉しくて嬉しくて。
「顔が緩んでるぞ」
「すみません。でも嬉しくて」
緩んだ口元が戻らない。
そうだ。何ヵ月ぶりかの休暇を取ろう。クローゼットに閉まっている私服を久しぶりに着てお出かけをしようか、なんて考えているとたくましい声が聞こえた
「あれ、訓練ですか?」
「新兵だ。もうすぐ配属だろう」
「調査兵団に入る子達ですか。今年は珍しく多いですね」
「役に立たない奴が何人いても一緒だ」
(酷いなぁ)
私たちは足を進めながら目だけを向ける
「あ。立体機動装置」
今日は立体機動の訓練なんだなぁ、と見ていると自分が最近立体機動装置を使っていない事を思い出した
「そういえば私、前回の壁外調査から立体機動使ってないです」
「鍛練しなかったのか?」
「しようと思っていたんですけど、異動とか書類整理に追われてしまって……」
「……」
新兵達が各自壁を登って行く。
町に見立てた家を使い、柱を使い宙に浮かんで行くのを私は少し羨ましそうに見ていた。
「私も、飛びたいなぁ」
「…………飛ぶ、だと?」
「立体機動は、私にとっての羽ですから」
「―――‐」
そう言って笑うと兵長は私の手を掴んで歩きだした
「へへへ、兵長!?」
「腕は鈍ってないな」
「え?」
「せっかくだ。飛んでこい」
ぐいっと力をこめられて私は前に出た
「でも、今は彼らが訓練中です!」
近づいてきた私たちに新兵達の視線が突き刺さる。
小声でリヴァイ兵長の名前が呟かれているのが聞こえた。
ついでにあの女は?とかリヴァイ兵長の隣に居るってどういう事だ?とかも聞こえる。
「〜〜〜わ、私また今度で大丈夫です!」
私はこの雰囲気があまり好きではない。リヴァイ班に異動になったときから覚悟はしていたが、よく耳にするのだ。
なんであんな奴が、と。
誰もが憧れるリヴァイ班。
その分兵士間でも注目される。
あぁ、あいつはやっぱり選ばれた、とか。あいつなら選ばれて当然とか。
でも私は違う。
訓練兵を卒業するときは10番で卒業ができたけど、特段何か秀ているわけでもない。
(リヴァイ兵長はいい人なんだけど)
そんな私は周りから批判を浴びることも多々ある。
(まぁ、大体は下の子からだけど)
長く居る仲間は良かったなとか、やっとか!遅いくらいだ!と励ましてくれる。
でも若い、新兵からの視線はやっぱり痛い。
(今班は私1人ってのもあるだろうけど)
「何考えてる。早く準備しろ」
「本気で言ってるんですか!?」
「ぐずぐずすんな」
教官に目を向ければ、新兵のやる気向上にもなります、なんていらない言葉が返ってくる。
私はリヴァイ兵長に渡された立体機動を体に装着した
「本気でやれよ」
「え?」
「お前等は調査兵団希望だろう。もしこいつを捕まえる事ができれば俺の班にしてやる」
兵長がそういうとざわつきから叫びに変わった
「え、え?」
「リア。手加減は許さねぇからな」
リヴァイ兵長からの視線が痛い。これはいらない奴等との区別をしろって命令なのだろうか
「リア、新兵全員が相手でもいいかな?」
教官が私に問う。
新兵は数十名。
「逃げるだけですし。構いませんよ」
そう。簡単だ。私は捕まらなきゃいいだけ。
(むしろ大人数の方が有利)
教官の合図で鬼ごっこは始まった
****************
(速い…)
「流石ですな」
始まって数分、リアは逃げ続けている
教官がリヴァイに声をかけた
「無駄な動きをしていない。ガスも最小限にしている」
「あぁ」
「新兵はまだまだ実戦で使えそうもありません」
「…………」
シュルシュルシュル、とワイヤーを戻す。私の体はそれと同時に引っ張られ壁に足をついた。
「つかまえ、た!?」
横から来た兵士を見落とすはずもなく、私はすぐに体制を立て直し下へと落ちた
(空が、綺麗)
アンカーからワイヤーを飛ばす
「はやく!そっちよ!!」
女の子が叫んだその先に他の兵士。
(避けきれない…)
周りに建物はない。
アンカーも戻すには時間がかかる。私がとった答えは
「ごめんね」
前方から来た兵士を避けるのではなくて
「うっ、がっ!!」
空中で倒す事だった。
倒すといっても、顔を押さえ込み投げ飛ばすくらいだ。
彼は地面へと落ちていく
「リヴァイ兵長、なぜ彼女を?」
「………」
「確かに彼女は優秀ですが。あなたが直々に願い出たと聞きました」
「……あいつほど」
リヴァイはリアから目を離さずに口を開いた
「自由に飛ぶ奴を、俺は知らねぇ」
空が近い。
アンカーを飛ばして上に体が浮く瞬間が私は好きだ。
壁外ではあまり感じていられないが、鳥にでもなれたかと勘違いしてしまう。
(自由だ。)
初めて制服の翼を背負ったとき、一歩近付けた気がした。
(いつか壁外で、平和に暮らせるようになって)
自由の翼の代償は大きい。
(でも、それでも私は――‐)
風がふいて髪が乱れる。
兵長と目が合った気がした。
「兵長!わたし!調査兵団に入って良かったです!!」
兵長が目を大きく開いたのが見えた。
その後彼は口の端をあげる
「面白い奴だろ」
「本当に」
教官と兵長の会話は聞こえないが、私はもっと空を近くに感じたくてさらにアンカーを高く飛ばした
飛びたい女
(あぁ、楽しい)
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