そのまま何食わぬ顔で私は皆と合流した。
「リア!どこ行ってたの!?探したんだから!」
「ごめん!ちょっと忘れ物しちゃって」
木に囲まれたここは立体起動の練習にはうってつけだ。
上を見ればすでにオルオと兵長が飛びかっている
ペトラの顔が見れなくて、私は足のベルトを締めなおした。
「リアさん」
「うわぁ…どうしたのエレン君、それ」
そんな私に声をかけてきたエレン君の顔はボロボロだ。
エレン君の目が上を飛んでいる兵長に向けられて納得する。
「ずいぶんやられたね」
「人類最強は、本当に強いです」
はぁ、とため息を吐くエレン君。なんだか可哀想。
「傷、洗わなきゃ」
バイ菌入っちゃうよ、と言いながら頬の傷に触った時だ。
隣から大きな音が鳴る
「っ!いっ!!」
「わぁ」
それは上からオルオが降ってきた音だとわかるのに時間はかからなかった。
「お前、よそ見したな。オルオよ…」
「す、すいません…」
あぁ、また怪我人が増えた。
オルオと違い綺麗に着地した兵長は私達を見て眉間に皺を寄せた
エレン君はそれに気付いたのか私の手から離れて一定の距離を取る
「エレン…休憩はすんだか?」
「い、いや、自分はもう…」
(なんだか変だ)
兵長は厳しい人だけどいつもこんなに皆に怪我をさせない。
長く彼といたからわかる。
(なに、イラついてるんだろ)
兵長は機嫌が悪いみたいだ。
(だからってエレン君にあたることないわ)
私の視線に気が付いたのか、兵長と目が合う
「なんだ」
「兵長、私にも稽古をつけてください」
「お前は必要ないだろ」
「お願いします」
刃を付け替える。
訓練用の切れない刃だ。
ピッと横に振ればキラリと光るそれは本物に見えた。
「お願いします」
もう一度言えば兵長は何も言わずにアンカーを握り直し先に飛んだ
「リアさん!」
私もアンカーを飛ばす
キュルキュルと擦れる音を立てて私の体は浮いた
「エレン君よく見ててね。リアの動き」
「え…」
「兵長が、リアを自分の補佐にしてる理由がわかるわ」
ペトラの目はすでに上を向いていた。
**********
キンッと刃がぶつかる音が響く。
(早いな…)
空間把握は女性の方が得意としているというが、こいつは別格だ。
(流石だな…)
とにかく次の動きが早い。
一度切り掛かってきてからの次の方向転換が早いのだ。
「兵長、なんでエレン君に強くあたるんですか」
「あぁ?」
リアが下に落ちながら今まで閉じていた口を開く
「エレン君、また怪我してましたよ」
「受け身がなってなかったんだろ」
「あまり、苛めないでくださいよ。可愛い後輩なんですから」
アンカーを上に飛ばして兵長に近づいた。
(あ、また皺寄ってる)
「お前は贔屓しすぎだろ」
「してません」
なんでだろ。なんだかイライラする。
「もっと兵士として扱え」
(兵士として…)
そんなの…
そんなの…………
「こっちのセリフよ……っ!!」
「っ!」
構え直して兵長に切り掛かる
避けられて私は木に着地。すぐにまたアンカーを飛ばす。
「兵長だって!兵士として扱ってない人が居るのではないですか!」
さっきの光景が浮かぶ。
好きだと言った。兵長は。
兵士としてでなく、一人の女としてペトラを見たのだ
(好きだったのに)
好きだったのだ。私は。
ずいぶん前からリヴァイ兵長の事が。
気付かないように気付かないように今までしていた。でも最近認めてしまった。
リヴァイ兵長が優しくしてくれたからきっと勘違いしてしまったんだ。
誰にだって彼は優しいのに。
ただ分かりにくいだけで、理解されにくいだけで、彼は誰よりも仲間を大事にしてる。
私も沢山の仲間の一人だ。
たまたま、目に留まって補佐になった。
それだけだったんだと思う。
(だったら、なぜ…)
「リア…?」
(なんで……)
「なんで、優しくなんて…するのよ……っ」
兵長の顔に一滴の雫が落ちた
それが私の涙だってわかるのに時間はかからなかった
「なに言って、」
「昨日だってそう!いつだって優しくて!」
「おい」
「期待させるような事して!」
「待て…っ」
キンッ、キンッと刃同士がぶつかる。私の方が兵長より上に居るから有利だ。
ハンジ分隊長に言われた言葉。
私が好きって言えば機嫌がなおる?そんな事を言われたら期待してしまう。
ずきずき痛む胸は止まることをしらなくて、涙も止まらない
「な、んで…っ」
なんでこの人を好きになってしまったのだろう。
変なカップの持ち方するのよ兵長は。
背丈だって高くないし、潔癖症なのよ。
それでもいいと思っていたのに。
「兵長なんて、嫌いっ」
「っ―‐!!」
「っあ!」
一瞬で間合いを詰められる。
腹を蹴られて飛ばされた。
「いっ、たぁ」
太い枝に足をつく。
(人類最強速すぎ…)
随分手加減してくれてたんだなぁと考えて立ち上がる。
次の攻撃がいつくるかわからないのだから。
「おい」
「っ!くぁ!」
いつのまにか後ろにいた兵長に首を捕まれて押される。
急いで方向転換するも無駄に終わり、首を捕まれたまま私は頭を木に打ち付けられた。
木が頭にあたって痛い。
口のなかを噛んでしまったのだろうか、私は自分の血の味がする唾を飲み込む。
「さっきのは本心か?」
「はぁ、はぁ、…は?」
「本心かと聞いている」
「……はい」
ぐっと力を入れられて眉をひそめた。さっき溜まった涙が一粒零れる
「……そうか」
目をそらされた。今しかないと思い右手を兵長の顔に目がけて振ったが残念ながら簡単に避けられて、そして―――――‐
(え――‐)
兵長の整った顔が近づいてきて、私の唇を塞いだのだ
それは血の味がした
(な、に――‐)
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