古城は古いだけではなくてなかなかの雰囲気を出していると思う。
(怖い…!)
外は雨。
それはもう、勢いのいい。
その雨のおかげで昼間は庭の掃除を免れた(代わりに部屋の掃除はしたけれど)
雨だけならまだいいのだが、この音がどうも苦手なのだ。
(あ!光った…!!)
くるぞくるぞ、と身を固くして待っていると少ししてから、ゴロゴロ!と音がなった。
(ひぃぃ!!)
両耳を塞ぎ布団を被る
(雷が落ちたら死んじゃうよ!!)
そう思っているとまたも大きな音が鳴った
「も、もう耐えられない!!」
この歳で雷が怖いなんて恥ずかしいけれど助けを求めよう。
きっとペトラならわかってくれるはずだ。
私は枕だけを持って外に出る。廊下はひんやりとしていた
(うぅ、こっちも怖いよぉ)
真っ暗な廊下。
すきま風が余計不気味に感じる。
(おばけとか出たらどうしよう…!!)
真っ暗な道を壁に手を着きながら歩く
その時だ。
(え、足音…?)
コツコツと靴の音が聞こえる。
それなのに廊下は薄暗く何も見えない。
(お、おばけだ!!)
自分で言うのもなんだが、こんな遅い時間に活動しないでもらいたい。しかも足音は自分が向かいたい先からこっちに向かって来ているようだ
「こ、こないでぇ…」
虫の鳴くような声だったが、足音はとまった
「あ、悪霊!た、退散!!」
塩を持ち歩けばよかった!
と心で叫んだときまた足音が近づいてくる。
そして、人のような影が見えた
「い、いやぁ!死にたくな―‐!んんぐ!!」
口を押さえられたため言葉は最後まで出なかった。
持っていた枕が地面に落ちる。
「夜中に叫ぶな、バカ」
「ふぇいふぉ!(兵長!)」
目の前には兵長。
私の口は兵長の手が今だに押さえている
「誰が悪霊だ」
「……ふぃまへん」
やっと兵長の手が離れて息ができた
「こんな時間に何してるんですか?」
「それはこっちの台詞だ」
雷が怖いのでペトラに一緒に寝てもらいに行きますなんて言えず私は口を閉じた
「女がこんな時間にそんな格好でうろつくな」
“そんな格好”とはこの寝巻のことで、薄いワンピースだ。
「風邪ひくぞ」
早く部屋に戻れ、と言いたげな兵長の顔。道を開けてくれる様子は無いようだ。
兵長は落ちたマクラを拾って私に差し出した
「あ、あの私…」
雷が怖いからとは言わなくていい。ペトラの所に行くんですと伝えてここを乗り切ろうと考えていた時だ。
きっと今日一番のあの大嫌いな音が響き渡った
「いっ、きゃぁぁあ!!」
耳を塞いでしゃがみこむ。
受け取りかけたマクラがまた床に落ちてしまった。
「うぅ…怖い、よぉ」
兵長のブーツが目に入る。
巨人に会っても泣かないのに今泣きそう。
「……雷が苦手か?」
「………はい、とても」
「誰かの部屋に行くつもりだったのか?」
「…怖くて…」
目の前に兵長が手を伸ばしてくれた。私はありがたくその手を掴み立ち上がる。
「そうか」
「お恥ずかしいかぎりです…」
兵長は私の手を握ったまま歩きだした。想像していたよりも温かい手だ。
「苦手なもんは誰にでもある」
「兵長………!」
兵長の手と同じくらいの温かい言葉に私は泣きそうだ。
兵長は再び私の落としたマクラを拾って小脇に抱えたまま歩きだす。
静かに歩く私たちは階段を上ってひとつのドアの前にたどり着いた
(あれ?ここペトラの部屋だっけ??)
首を傾げていると兵長はノックもせずに扉を開けた
「え!あ、あの、兵長!?そんな勝手に入ったら…!」
「なんで自分の部屋に勝手に入ったらだめなんだ」
「……え??」
そのまま手を引っ張られると私は前のめりになりながら一歩部屋に入った。そのままベットに連れていかれ座らせられる。
まさか、とあり得ない考えが頭をよぎった。
(兵長の部屋で、兵長とふたりっきりで、ベットは1つしかないって事は……!!)
瞬間私は口を開いた
「あ、あの兵長!わ、私ペトラの所に!」
「こんな遅くじゃ寝てるだろうが。迷惑かけるな」
「で、でしたらやっぱり部屋に戻ります!」
「動くんじゃねぇ、削がれてぇのか」
「ひぃ!すみません!」
兵長はマクラを置いた後、跪いて私の靴を脱がし始めた。
「雷が怖くて調査兵団なんかやっていけませんよ!だから大丈夫で――‐!」
明るい光が瞬間的に部屋を照らす。私の影で兵長の顔は照らされなかったが私の事を見ているのはわかった。
そしてあの音。
「ひ、やぁぁあ!」
肩が跳ねて前に倒れこむ。
目の前にいた兵長に上からかぶさる形になり、兵長はしりもちを着いた
「ずいぶん積極的だな」
「すすすすみません!!!」
「今夜はずっと雷が鳴るだろうな」
「そんなぁ…!!」
「だから大人しく俺の言うことを聞いていればいい」
兵長は立ち上がって私を持ち上げた。脱がしかけた靴は既に床に散らばっている。
私はゆっくりベットに降ろされてリヴァイ兵長は私の頭を数回撫でた
「壁外で一緒に寝泊まりしてんだ。あんまり変らねぇだろ」
「壁外ではベットに寝れませんよ」
「お前のアホな寝面は何度も見ているから安心しろ」
「そういう事じゃありません…!!」
兵長はベットの反対側にまわりくぁ、と一回あくびをした
「夜中にでかい声だすな。いいから寝ろ」
自身もブーツを脱ぎベットにあがる。
布団を2人で被ればもう逃げれないのだ。でも実際雷は怖いから助かる。
「兵長、お世話になります」
なんだそれ、と兵長は少し笑った
「昔から雷嫌いなんですよ」
「そうか」
兵長が私の方を向いて横になる。私も兵長の方を向いた。
「何をしても勝てない相手ですし」
「勝ちたいのか?」
「倒せない相手は怖いです。おばけとか」
「そうか」
また雷が鳴って私は少しだけ兵長に近づいた
「なんで空が光るんですか。どこからこんな音が出るんですか…!!」
「しるかよ、そんなこと」
「そういえばなんでこんな時間に歩いていたんですか??」
「…………」
「兵長?」
お風呂はもうみんなで入ったし、兵長の部屋は皆の階と違い上だ。
なにか用事でもあったのかも知れないがこんな夜中だ。
よっぽど急ぎの用に違いない。
「私、邪魔しちゃいましたか?」
「いや…」
少し無言が続いた後兵長は反対を向きながら言葉を紡いだ
「班員に怖がりな奴がいるからな。ちゃんと寝れてるか確認しに行く途中だった」
「…え?それって……」
「わかったら早く寝ろ。明日も早い」
「………はい。おやすみなさい、兵長」
あぁ、この人は本当に優しい人だ。怖がりな班員はきっと私のことで、私を心配して来てくれたのだ。
(嬉しい…)
むこうを向いてしまった兵長に少しだけ近づく
(兵長、私あなたの事が好きなんです)
雷の音は私の心臓の音で掻き消されてしまう
素直になった心に痛みは無い。
私はまるで初恋みたいな感情だけを感じて、じわりじわりと温まる布団に沈み私は目を閉じた
優しさじわり
(兵長って、とても温かい人)
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