「ねぇ、聞いた?今度くる上司ってハーフらしいわよ?」
「なにその情報」
カチカチとキーボードの音が鳴り響く。
パソコンの画面には文字の羅列がある。
私は画面から目を離さないで友人の話に耳を傾けた
「今回の不祥事で空いた席にくるのがイケメンハーフ男子って言ってるの!」
「へー」
社員へのセクハラ。
最近よく聞く異動の理由だ。
それが役職の上の人間だったらなおさら周りの関心は高い。
「ハーフだかなんだか知らないけど…今度はまともな上司がいいなぁ」
頭のてっぺんから光を放っていたあの上司はこないだ居なくなった。女性社員へのしつこいセクハラが原因だ。
手を休め首を鳴らす。
時計を見ればまだ新上司の迎え入れまで時間がある。
「ちょっと、どこ行くのよー」
「トイレだよ」
私は席を離れてトイレに向かった。
手を洗いハンカチで手を拭く。
大きな鏡で前髪を整えた。
最近のトイレは本当に綺麗だ。
温水便座に音姫に……長居してしまう。
(あれ?)
入り口付近の全身鏡に赤い色がついていた。ちょうど顔の辺り。
(誰か口紅でもつけたのかな…)
気になって近づいた時――‐
「っえ」
後ろから誰かに背中を押された
(誰も居なかった、はずなのにっ)
私はそのまま前のめりになり鏡に倒れこむ
ぶつかるっと目を瞑ったときだ。
どぷん、と液体に入る感覚がした。
(なに…!?)
粘り気のあるような液体に入った感覚。私は手で口を押さえた。
数秒して感覚が無くなり目をゆっくりと開ける。
目の前には古びた木のフローリングが現われた
「どこ、ここ……?」
目を開ければそこは知らない場所。
周りを見渡すとここがどこかの家だと言うことがわかった。
割れた窓ガラス、半分崩れているレンガが使われた暖炉、穴の開いたフローリング
(どうなってるの!?)
私は確かに会社に居たはずだ。
(夢……?)
証拠に自分の服を見れば会社の制服のままだし、感覚もしっかりある。
(……どこなのよ)
何が起こったのか理解しがたい。とりあえず早く会社に戻らなくては。新しい上司が来てしまう。
私は足を踏みだした。古びた床がギシリと鳴る
「これって不法侵入になる?」
一番近くのドアを開ける。
それは玄関のドアだったようで眩しい太陽が私を照らした
そして、裸の男と遭遇した
「え?」
少し向こうにいる男は首を一度傾げた後私に近づいてくる
ニタニタと笑う顔はなんだか嫌な感じがした
「あ、あの私……実、は………」
とりあえず不法侵入ではないと弁解しようとしたがそれは口に出せなかった。
「ひっ!!」
すぐそこまで来た男は想像以上に大きかったのだ。
怖い
それしかなかった。あんな大きな人間は見たことが無い
私の2倍はあるかもしれない。上を向く私は開いた口が閉じられなかった
不可解に笑う口元が余計恐怖心を煽った時だ。大きな手が私に伸びてくる。
(逃げ、なきゃっ……!)
頭では警報を鳴らしているのに足は一向に動かない。
膝はガタガタ震え、カチカチと私の奥歯が鳴る音だけが聞こえる
太い腕が私の肩を触った時だった
「大丈夫ですか!?」
金の髪の男がその腕を切り落とすのが見えた
腕はそのまま地面に落ちる。
そして切断された腕からは真っ赤な液体が吹き出した
「なんでこんな所に――‐ぐぁ!!」
「っ!!」
目を真ん丸くした彼は私の代わりに反対の腕であの化け物に捕まってしまう
そして――‐
「う、そでしょ……」
彼はあの大きな口に飲まれていった
(食べた、の?)
(人間を?)
噛み切られた足が落ちて地面に跳ねた
「き、きゃぁぁああああああ!!!」
人間の足が人間の足が人間の足が人間が食われた人間が食われた人間が食われた!!!!!
足に力が入らない
化け物の目が私を離さない
いつのまにか手が生えている
人間が目の前で食われた
(なんなの…)
次は私を食べるんだ、とどこか冷静に感じたときだった
「お前も変な面してんな」
低い男の声が聞こえて、
「綺麗に削いでやる」
化け物はいつのまにか倒れていた
(訳が、わからない――)
土埃が舞った後、1人私の目の前に立つ人が見えてくる
それは男の人で、私を見ると目を見開いた
「――‐エリ?」
(なんで名前――‐)
そして彼は間違いなく私の名前を呼んだのだ
覚えているのはここまでで、その後私はすぐに意識を手放した
手放した
(温かい何かに包まれた気がした)
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