「恵梨!恵梨ったら!!」
「えっ?」
「もう、大丈夫??」
無意識に止めていた息を吐き出して私は横を見る
そこには懐かしい友人が心配そうにこちらをみていた
「私……」
「ごめん!そんなに驚くと思わなくて。背中押して驚かせようと思っただけなんだけど」
ふふっ、と笑う彼女を見て安堵する
「ここに、赤くなにかついてて……」
「なんにもないけど?」
「それで、背中を押されて…」
「だからごめんって!」
背中を押したのは彼女だとわかる。
両手を顔の前で合わせて謝罪をしたあと、一緒に鏡を覗き込んだ彼女は私の後ろへと回る
「そーれーよーりっ!早くいこうっ!もう来ちゃうよ?」
「えっ、来るって何が?」
後ろから彼女は私の背中を押しながら歩く。
「やっだ!もう忘れたの?新しくくるイケメンハーフ男子!!」
「あ、あぁ。上司が変わるってやつか」
そんな話が出たのはもう何ヵ月も前のような気がするが、あそこでの時間は全くこの世界に関係の無いようだった
「夢でも見てたのかなぁ……」
「立って夢見るほど疲れてるの??」
「まぁ、なんというか…良かった。戻れて」
はぁ?と彼女は不思議そうな顔をしたが私は自分の頬をさわって傷がないことを確かめた。
光る蛍光灯、歩き回る社員たち。
懐かしい光景に安心した。私は、戻ってこれたのだ。
今思えば、もっと早くに帰る方法を見つけておくべきだった。まぁ、結果的に戻れたから良かったのだが。
(監禁されて、追いかけられて殺されそうになって感覚がおかしくなってたんだわ)
これがあるべき姿だったのだ。
「あ、もう来てるよ!」
部屋に入ると見慣れない男性が立っていた。何人かの女性社員に囲まれている
「わぁ!格好いい!」
黄色い声の中心の人物がこちらを見た
「おや、君どこかで会ったことあるかな??」
金の髪にブルーの瞳。
一度だけ見たあの顔だ。
「…嘘、でしょ?」
「エルヴィンさんって言うんですねー!初めまして!」
「君は元気だね。よろしく」
友人が近づいて握手を求める
「君も、よろしく頼む」
次にこちらに来て私に手をさしのべるが私の身体は動かない
「ごめんなさい、この子ちょっと調子悪くて」
「そうか」
私が動かないのを見て友人が話を繋いでくれる
(どうして…ここに……)
「おや。君も少し日本人離れしている気がするが…」
「あ、そうなんですよ。私母が外国人で。今は移動しましたが昔ここで働いていたんですよ」
「そうか。私が知っている人かな??名前は?」
「ハンジ・ゾエです」
びくっと肩が揺れて大きく見開いた目で彼女を見る
「えっ、どうしたの?」
そんなことある??同姓同名の人がこの世界にも居るなんて
「彼女、疲れているんじゃないかい?」
「本当ですね」
「そうだ、実は私がここに来るにあたって優秀な人材を一人だけ連れてきた。よろしく頼むよ」
コツコツと後ろから足音が近づいてくる
足音が近づくにつれて心臓が脈打ち私は唾をのみ込んだ
(大丈夫、大丈夫だ。ここは元の世界なんだから)
ぎゅっと手を胸の前で握りしめる
嫌な汗が背中を流れた
足音が止まる。私の後ろに誰かが立っているようだ。気配だけ感じて身体を強ばらせる。
「…大丈夫だ。今度はうまくいく」
低く唸るような声が耳元で囁く。
ぽん、と私の肩をその人物は触って、私は足の力が抜けて倒れ込んだ。
見上げればあの見慣れた顔
「今度こそ、守ってやるからな。エリ」

それは呪いのように、
(これは彼女の呪いなのか、私は逃げられないのだと悟った)
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