かなり離れたところで一度彼は止まった。
道に降りて裏地ろに入る。
「大丈夫だったか?他に何かされなかったか?」
こちらを向いて私の身体を優しく触るリヴァイの手が暖かくて息を吐いた瞬間にポロリとまた涙がこぼれた
「何をされた…!!」
「何も、されてないよ…」
「泣いてるじゃねぇか。どこか痛いのか?」
手の甲で一度涙を拭ってリヴァイを見る
「リヴァイ、ごめんなさい。私、あなたに酷いこと言ってしまって…」
結果的に守っていてくれた彼に私は酷いことを言ってしまった。これは事実だ。
「いや、そんなこと気にしてない。エリが無事でよかった」
はぁ、と安堵したため息と共に腕を回され抱き締められる。
「……エリさんの事、少しだけ聞いた」
「そうか」
「みんな、おかしいと、思う」
「あぁ」
少し沈黙が続く
空は少し明るくなったのにとても肌寒い
「俺は、あいつを愛してたんだ」
小さな声でまるで自分に言うように話すリヴァイの顔は見えない
「危なっかしいのに、真っ直ぐで生意気なあいつを側に置きたいと思ったのが悪かったんだ」
あいつが死んだのは俺のせいだと言ってリヴァイは私から離れた
そして私の腕をひいて背中へと隠す
「騙されちゃいけない」
「……随分勝手な事してくれたな、ハンジ」
いつの間にか追い付いたハンジさんの腕にはキラリと光る長い刃物が装着されていて、リヴァイも足から同じようなものを取り出して装着した
少しだけ明るくなった空からの逆光でハンジさんの顔は見えない。
「エリ、リヴァイは彼女と付き合っても居ないのにあの部屋を作って監禁しようとしたんだよ?」
「お前らがエリを連れてこうとしたからだろうが」
「どうだか。自分の物だけにしたかっただけだろ?」
私でもわかるくらいのピリピリした空気に、これが殺気というものなのかとどこか冷静に考える
「エリ、こっちに来て。さっきは悪かった…エルヴィンは私が説得する。君は私の監視下で暮らせるよう伝えるよ」
「エリ心配するな。俺がお前をまた不自由ない暮らしに戻してやる。あいつの元へいく必要は無い」
「よく考えるんだエリ!リヴァイは君を監禁するって言ってるんだよ!」
「エリ、あいつはまたお前を殺そうとする」
なんだか息が苦しい。
リヴァイに着いていけば私はまたどこかの部屋のなかで暮らすのだろうか。外にも出れず、彼だけにしか会えない生活。愛していると言いつつも結局はただの独占欲であり、守りたいと言いつつも結局は閉じ込めて自分に都合のいい“エリ”を作りたいだけだ。
ハンジさんに着いていけば、また殺されるかもしれない。いくら先程の上司を説得した所で彼がOKを出さなければまた私は処分の対象となるだろう。
(殺されるか、監禁されるか)
なんて二択なのだろうか。どっちも選びたくはない。
「リヴァイの執着は凄いよ。これは君のためでもある」
(監禁部屋を作るくらいだ、確かに執着心は凄いと思う)
「最終的に殺せばいいと考える連中だぞ。騙されるな」
どっちを信じればいいのだろうか。
今重要なのは……
(死にたくない)
ぎゅっと下唇を噛んでリヴァイの腕を掴む
「………いくぞ」
ぐっと腰を引かれてリヴァイは右足を踏み出した
「待つんだ!エリ!!君の為でもあるんだ!!」
聞きたくない、と耳をおさえる
(もう、誰も、信じられないんだから)
ふわっと身体が浮いてリヴァイが私を抱き直した。
「エリが俺を選んだ」
「えっ?」
「こんなにも嬉しい事はない」
真っ黒な瞳がぶつかってリヴァイが少し微笑む
「…ねぇ、リヴァイ。エリさんとはどんな関係だったの?」
「急だな」
「エリさんとは付き合っていたの?」
「…いや」
視線をずらされて彼の横顔が見える
「じゃぁ、なんであの部屋を作ったの?」
「エリと一緒にいるためだ」
「ハンジさん達がリヴァイと彼女を引きはなそうとしたから?」
無言になった彼はそのまま地上に降りる
小さな家の前で立ち止まって彼はため息をついた
私から数歩離れてため息をつく。
「それとも、自分だけの物にしたかった…?」
「あいつが逃げようとしたんだ」
「逃げる…?」
「俺から逃げようとした。だから手元に置いておこうと思った。それだけだ」
まるでペットが逃げるから鍵でもかけました、というような軽い口調に怖さを覚える
「……今回もそうだな」
私の方に視線だけ向く
私は顔ごと目線をずらした。横の家の窓に反射して自分の顔が見える。
「結局お前だって逃げようとした」
「それは、リヴァイが嘘をついたから…」
「俺の元に居るのが安全なのがわかっただろ?」
あぁ、またあの目だ。何も言い訳をさせないような鋭い視線に口調。
「それなのにまた…今度は逃げれないように手足を切り落とすか」
顎に手を当てて悩むしぐさに背筋が凍った。
この人は冗談で言っていない。純粋に悩んでいる。
「ば、バカなこと言わないで」
顔をリヴァイに向けると少し怒ったように眉間にシワを寄せたリヴァイが目に入った
「あ?」
「っ!!!」
瞬間、頬に痛みが走る。
そろり、と指で頬をなぞると赤く手が汚れた
「俺はいつだって本気だ」
ひゅっ、と息を飲む。リヴァイの手には先程の刃。これが顔に当たったのだとわかる。
(この人も、やっぱりおかしい…!!)
先程のハンジさんの顔が一瞬浮かんだが、彼女が安全なわけでもなくすぐに掻き消された
「大丈夫だ。今度はうまくいく」
リヴァイの言葉を聞いてスーっと頭から血の気が引いた。
横を向いて家の窓の反射で顔を確認する
私の顔にはまっすぐに切り傷がつけられ、少しだけ真っ赤な血が垂れていた。
私の手についた血で窓に映る私の唇をなぞる
「……私の日常ってどこに行ったんだろ」
ぽつりと出てきた言葉は、私を冷静にさせた。
「エリ?」
「会社に行って、仕事して、飲んで帰って、」
この世界は何もかも不足している
「髪も茶色く染めてたのに、伸びて真っ黒だし、ネイルだってできない」
混雑している電車、寂しさを埋めるように弄ってしまう携帯電話、全てが懐かしい
「赤い口紅ですら、この世界には無いのに」
なぜ私の頭には二択しか無かったんだろう
「私、間違ってた」
ハンジさんに殺される運命か、リヴァイに監禁される運命か。その二択しか考えてなかったけれど
「私が選びたいのは元の世界に帰ること」
私には帰りたい理由がある。待ってる人がいる。
そんな事すら忘れていた。
「私の行動を、貴方達が決めることはできないわ」
うっすら笑うエリを見てリヴァイの眉間にシワがよる
「あいつも、同じ事を言っていた」
「貴方とは一緒にいかないし、ハンジさんの所にも戻らない。私はこれから元の世界に戻る手段を探す」
「そんなこと許さねぇ」
「私は、私の世界に戻る」
日が昇ってきたのだろうか。私の影が少しずつ伸びてリヴァイの足にかかる
「あれ?」
窓に目を向けると私が反射しているが、そこには見慣れた服を着ている私が居た
(あ、懐かしい。私の会社の制服だ)
窓の中の私と目が合う。
懐かしむように私は窓に触れた。
反射した窓の中の私の手と、私の手がくっつくと、ゆっくりと身体が沈む
「え……?」
後ろから誰かに押された。
横を見ると驚いた顔のリヴァイが私に手を伸ばす
「エリっ!!!」
まるでスローモーションのように私は窓の方へと倒れていく
少し身体を捻ると背中を押した人物が目に入った
「ハンジ、さん」

どぷっ

鈍く沈む音が耳に聞こえて私は意識を手放した
選択する道はひとつだった
(何を迷う必要があったのか)
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