それは人形のようだった


自分よりも上の人間が集まる会議になぜか参加するように命じられた月島軍曹は入り口のそばで姿勢を正して立っていた。
目の前には長いテーブルがあり、長細い部屋の奥まで続いている。一番奥には見るからに偉そうな立派な髭を生やした男が一人で座っていた。その横に等間隔に座る彼らは一様に眉間に皺を寄せているのが見える。自分の上司である鶴見は入り口側に座って、狭いのに椅子を二つ並べて“それ”を隣に座らせていた。
「可愛いでしょう?」
静かな部屋に鶴見の声が響く
「白い肌に絹のような黒髪、そして林檎のような頬」
するりと鶴見の指先が“それ”の頬を撫でる
「彼女はさくら。私の側で雑用をやってもらいます」
さくらと呼ばれた女は鶴見の方を見て微笑んでいた。
(不気味なほど大人しいな…)
先ほどこの部屋にはいる前に月島は彼女に会っていた。
鶴見が手を引いて長い廊下からやって来たとき、ここに座っている重鎮達同様に月島も眉間に皺を寄せた。なぜ見知らぬ女を彼が連れているのかはわからないが、女は月島を見て一度頭を下げると薄く笑って鶴見を見つめていた。
鶴見は何も説明はしてくれなかったが、一つだけ月島に頼み事をした。その頼みが彼をここに留めることになったのは言うまでもない。
「お前の行動は目に余るものがあるが……、またか?」
「女を側におく意味はないだろう。雑用は他の部下にさせればいい」
「花を飾るのと同じですよ、私は美しいものを側においておきたいのです」
確かに彼女は人形のように美しい。色白の肌、黒い髪は少しの光を反射して見えるほどサラサラしている。きゅっと閉じられた唇は薄く血色付いて、零れるのではないかと思うほどの大きな瞳はどこか遠くを見つめていた。
「側に置いておいて知られてはいけないことを彼女が聞いたらどうするんだ、そいつは一般人なのだろ?」
「ご心配はいりません、彼女はただの飾りであり、花なのですから」
「なにを言って…」
「月島!」
「はっ」
鶴見が片手をあげると後ろに居た月島が拳銃を取り出し上に向けて発泡した。
これが彼に頼まれた事だ。弾は出ない空砲だが音が小さな部屋に響くには充分で、かなりの音に一様に立ち上がったり驚き身体をびくつかせる者も居た。ただ一人を除いて。
「彼女が飾りの意味がわかりましたかな?彼女は耳が聞こえない。話すこともできないのですよ」
(瞬き一つ、しなかった…)
斜め後ろから彼女を見ていた月島はそれに驚いたし、彼女が耳が聞こえなく話せないため先ほど挨拶しなかったのだと納得した。
彼女は周りが立ち上がったのを見て不思議そうな顔をした。鶴見が立ち上がりさくらと呼ばれた少女の髪を撫でる。
「耳も聞こえなく、声も出せないこの少女を哀れだと思いませんか?」
静まり返った部屋からぽつりぽつりと人が居なくなる。
好きにする代わりに大人しくしてろ、と中尉に行って彼らは出ていってしまった
「なぁ、月島。さくらを第七師団に迎え入れるぞ」
ニヤリと笑う彼に月島はため息をついた
それは人形のようだった
(どこから連れてきたんですか)
(ふふふ、秘密だ)


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