「ねぇ、百之助さん、恥ずかしい」
「あぶねぇだろ、おとなしくしてろ」
部屋に充満するシンナーの匂い。
少し蒸し暑い気がする室内なのに窓も開けずに私たちはいる。なぜなら動けないからだ。
「これ、安いんじゃねぇか?ハケが塗りづれぇ」
「300円くらいだったかな?」
「今度はちゃんとしたやつ買ってこい」
「だから、自分でやるって言ってるのに…」
私はソファーに深く座って居て大好きなクッションを抱き締める。百之助さんは床に胡座をかいており、私の右足をぐっと上に押し上げた。
「きゃっ!!」
「こんな汚ねぇ仕上がりで外に出るのか?」
真っ赤なマニキュアは私の5本の指全てに塗られているが、確かにいびつだ。
「この差を見てみろ」
「痛い!!」
もう反対の足も持ち上げられつりそうになる。
左足は綺麗にマニキュアが塗られており反射してテカテカ綺麗だ。
「……差が激しい」
「一回全部落とすぞ。右足出せ」
「えぇ、もういいよこれで」
「除光液貸せよ」
「はーい」
除光液とコットンを渡すと百之助さんは黙々と私の足をいじりだす。
何気ないお休みに、もうすぐ暑くなるからとフットネイルでもしようと塗っていると百之助さんが現れた。私は細かい作業がもともと得意でないから右足を塗り終わった時には後ろからため息が聞こえた。頭を押さえた百之助さんが貸してみろって言うもんだからマニキュアを渡したら私の左足を塗り始めたのだ。
(手、ごつごつしてるな…)
男性的な大きくてしなやかな手は私よりも丁寧に爪に色を塗っていく
(睫毛長いな…)
「他の色、無いのか?」
「あ、白あるよ」
「用意しとけ」
そういい残すと百之助さんはキッチンへ向かった。
私は足元に置いておいたマニキュアの入れ物の中から白色を取り出す。何か柄でもつけてくれるのだろうか。足を持ち上げると両足共に真っ赤なマニキュアが綺麗に塗られていた。
彼は器用だからお花とか描いてくれるのかもしれない、とウキウキしていると百之助さんが戻ってくる。
「はい、白色」
「あぁ」
「何描いてくれるの?」
「お楽しみだ」
ニヤリと笑って彼はまた胡座をかく。
持ってきたのは爪楊枝で、彼は白いマニキュアをそれにとるとまた手を動かし始めた。
「百之助さん器用よね。こんなに綺麗に塗れるなんて」
「あぁ、また塗ってやるよ」
「ありがとう、嬉しい」
自分でやるよりはるかに楽だ。彼が嫌でないならまた頼もうと思っていると、百之助さんが手を止めて私の隣に座った
「あとは乾くのを待つだけだな」
何を書いてくれたのか見ようと上半身を持ち上げようとすると彼の手が私の肩を掴んだ。
「後で確認しろ。うまく塗ってやったんだ、ご褒美くれよ」
「えっ!そんなの聞いてないよ!?」
「まだ乾いてないからな、キスで我慢してやる」
とんとん、と唇を指差す彼。
私はおずおずと彼に近づいてちゅ、と小さな音を立ててキスをした。
「ははぁっ、ガキみてぇなキスだな」
文句をいうわりには嬉しそうな彼を見て素直じゃないなぁ、なんて思う。
ちらりと赤い足が視界にはいって私は絶句する
「ちょ、ちょっとなにこれ!!」
私の指には白い文字で綺麗にこう書かれていた
”私の主人は尾形百之助“
ちょうど10文字。よくこの小さな爪に書けたと褒めたいような怒りたいような。
「いいだろ?これで出掛けようぜ」
「ばか!絶対無理!」
除光液に手を伸ばそうとしても彼の腕に捕まって、私のマニキュアは乾いていってしまった。
赤いマニキュア
(これじゃぁサンダル履けないよ!!)
(履けばいいだろ)
(もう絶対お願いしない…!!)


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