十センチの桃太郎?::P1/1


あるところに、お爺さん役の妖精さんAとお婆さん役の妖精さんBがいました。

二人は小さな家を建てて暮らしています。
とはいっても、暮らし始めたのは今朝のこと。
何をして遊ぼうか、話し合った結果、こうなりました。


お弁当を包んだ風呂敷を背負い二人は出掛けます。

妖精さんAは山へお菓子探しに。
「いってくるです」
妖精さんBは川へお菓子探しに。
「いってくるよ」

二人は別々の方向へ出発しました。


≡≡≡≡

山へお菓子を探しに来た妖精さんA。
ぴょんぴょん飛びはねながら、身軽に斜面を上っていきます。
濃緑の茂みを突っ切って、水溜まりを避けてジグザグに。
石ころだってひとっ飛び。
身軽な妖精さんの前では、どんな困難も障害にはなりません。
頂上付近までたどり着いたのはちょうどお昼頃でした。
足を止めた妖精さんは後ろを振り返ります。

ここは人間が暮らす里から少し離れたところにある丘です。
妖精さんが振り返って見る低い位置に、いくつもの建物が並んでいます。
赤い屋根、黒い屋根、ちょっと風変わりな紫色の屋根。
壁の色も、白いものや、赤青黄色など。
いろんな色で妖精さんの目を楽しませます。

建物と建物の間で動いているのは人間です。
ここから見ると人間も妖精と同じ大きさでした。
一人、二人、三人、と人数をかぞえていき、五人以上のたくさんいると答えが出ました。
こんなにいい天気の日には、たくさんの人間が外に出て働きます。
人間の元気な姿を見ると妖精さんも元気になれる気がするのでした。
里の広場をかけ足で横切る人間の姿を目で追います。
髪の長い女の人です。
なんだか嬉しくなった妖精さんは、ぷるぷる、体を震わせます。

「いいながめです?」
この場所が気に入りました。
ちょうどお昼の時間。ここでお弁当にしよう、妖精さんは横倒しになった丸太を休憩場所に選びました。

背負っていた風呂敷の中身はお弁当の金平糖です。
淡いピンク色をしたひとつぶ。
妖精さんにとっては大きな一個です。

遠くに人間の姿を見ながら金平糖の欠片を口に含むと、カリカリと音を鳴らして食べます。
甘くて幸せな時間。これだけで妖精さんは満足でした。


「かえろーっと」

食べ終わった妖精さんは来た道を下ります。
忘れっぽい妖精さん。本来の目的をすっかり忘れてしまっていました。


≡≡≡≡

一方、川へ向かった妖精さんBはというと。

里の外れにある川に来ていました。
透明な水がさらさらと流れます。
目指すは川上、流れに逆らう形で歩いていきます。


「さかなー」

水中に魚の姿を見つけて指差し名前を呼びます。

「かたつむり」

葉っぱの上を移動中のかたつむりを発見。
目についた気になるものをひとつひとつ指を差して確認していきます。
山へ向かった妖精さんとは違って、真面目なお菓子探索です。

「さかな、にひきめー」

目当てのものはなかなか見つかりません。


と、川の上流に妖精さんの指が向きます。
流れてくるものを確認。

「ささぶね」

一枚の笹の葉を細工して作る船です。
残念、お菓子でもなければ桃でもありませんでした。
食べられない笹の葉には興味なし。
ですが、笹舟の上から手を振ってくる妖精さんCに、元気に手を振り返します。


妖精さんBの前まで来た笹舟はいい感じに操作されて岸に寄ってきました。
そして川辺の草に引っ掛かって止まります。

笹舟から下りてきたのは桃太郎役の妖精さんC。
妖精さんBが何の遊びをしてるのかと、興味津々で駆け寄ってきました。

「なにしてるのー?」

「おかし、さがすです」

「ぼくもいっしょにさがそー」

仲間が増えました。
二人で力を合わせれば、きっと見つけられるでしょう。


二人が乗った笹舟は、すいすいと下流を目指します。
妖精さんBが歩いてきた川辺の道を戻って、さらに川下へ。

指差し確認は続きます

「かえる」
「あまがえる」

「おはな」
「あじさい」

「おかしー!」「おかしー!」

弾む声がぴったりと揃いました。

遂に見つけました。
お菓子です。

笹舟から下りた二人は全速力でかけ寄ります。
大きな箱入りのお菓子でした。

『桃まんじゅう 3個入』


「ももー!」「ももももももも」

これは桃の形を模したおまんじゅうのようです。
薄紅色のおまんじゅうの絵がとてもおいしそうに描かれています。
きっと箱の中身のおまんじゅうはもっとおいしいのでしょう。


「はやくかえろ!」「かえってたべよ!」

二人の妖精さんは箱の前と後ろに分かれて配置につきます。
大きな箱は一人では運べません。
ですが、力を合わせれば軽いものです。
かけ声で足並みを揃え、急いで帰る二人でした。

≡≡≡≡

「ただいまー」

お菓子の箱を抱えて玄関をくぐる二人を、先に帰ってきていた妖精さんAが迎えます。

「おかえり」

「おかし、みっけたよ」「もものおまんじゅう」

「でかしたです」

さっそく箱を開けます。
はやく食べたくて、もう一秒だって待っていられないといった様子でした。
これは他の二人とも共通した気持ちです。

箱の絵とほぼ同じ、桃に似ているおまんじゅうが三人分。
ひと抱えもあるそれに大きく口を開けてかぶりつく。

「んまー」「あまー」「しあーわせ」

ぱぁっと表情が明るくなります。
幸せの笑顔です。

「もものあじ」「ぴーちだ」「あんこなのにもも」

桃の味つけがされていました。
おいしいお菓子を食べはじめては途中でやめられません。
一口、二口、と幸せは増えていき
ひと抱えもあったおまんじゅうはぺろりとお腹に消えてしまいました。


「もっと、おかし、あればいーのに」「ほしいです」「しぬほどたべたい」

食べ終わった直後だというのに、話題に上るのはお菓子のことばかり。
死ぬほど食べたい、とは半ば本心から出た言葉でした。

「とりにいく?」「どこに?」「かみさまのいえは、おかしてんごくでは?」

答えは簡単でした。
神様と呼ばれる人間の家にはいつでもたくさんのお菓子がある。
これは近隣の妖精たちの間では常識なのでした。
あそこに行けば、山ほどのお菓子が手に入るはずです。

答えが出れば、あとは行動するだけ。
妖精さんたちの行動は素早く、あっという間に準備が調いました。

今回のお弁当はきびだんご。
四個のきびだんごは、探索係に任命された妖精さんCが受け取ります。
たくさんのお菓子を持ち帰るには仲間の力が必要でしょう。
このきびだんごは、道中で出会う仲間と食べるものです。

「……」「……ごくりっ」

妖精さんAは無言で見つめ、妖精さんBは生唾を飲み込みます。
言わんとすることは明白でした。

「たべるです」

お菓子を前にして我慢するなんて無理な話。
一度は風呂敷に包んだものをほどき、二人にひとつずつ
妖精さんC自身もひとつ手に取りました。


そこへ。
トントンッ
玄関をノックする音がして、お客さんが訪ねてきました。

「なかまにいーれてっ」

楽しい気配を感じ取ってやってきたのは妖精さんD。
仲間が増えました。
妖精さんDにもきびだんごをひとつ。これで全部です。


さて、きびだんごを食べてしまって困りました。
途中で仲間を集めるつもりだったのに、きびだんごがなくては誰もついてきてはくれないでしょう。
お菓子をたくさん持ち帰る計画がつぶれてしまいます。
これは大変な事態だと悩んで、話し合って、その結果
神様の家に行くのは、桃太郎役の妖精さんC
お供に、妖精さんABD
みんなで行くことになりました。


≡≡≡≡

開いた窓から部屋に飛び込みます。
そして人間さんの前に並びます。
お菓子を手に入れてみせる、気合いと期待で引き締まった表情をしていました。

四人を代表して桃太郎役の妖精さんCが言います。

「にんげんさんは、おにです?」

「えっ?」



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