十センチの裸の王様?::P1/1


ここは妖精王国。
お城も玉座もない場所ですが、三十分ほど前に建国しました。
これから豊かに発展していくといいなぁと夢見ている生まれたての国です。

頭に金色の王冠を乗せたきゃっぷが廃タイヤの上に立ちます。
彼はこの国の王様です。

「おうさま、ばんざーい!」「きゃぷおーさまぁ」「ばんざーい!」「きゃぷぉー!!!」

そして一段低い地面から王様を見上げるのは国民の妖精さんたちです。
王様の登場を受けて歓声がより大きくなりました。
支持率百パーセントと言ってもいい盛り上がりです。

王様手袋を着けた手を上げ、国民へ向けてゆるやかに振ります。
「くにみんのみんなさん、ごきげんよう」
優雅に挨拶をしました。

「おうさまっぽーい」「ぽいねー」「ひざまずきたーい」「ぼくにおててふってくれたー!」

みんなご機嫌でした。


そこへひとりの妖精さんがとことこ歩いてやってきました。
不審な妖精を止める近衛兵はいません。
簡単に王様の前まで来られました。
とっても無防備。これがお宝を狙う不届き者だったり娯楽を求める野良猫だったら一巻の終わりだったでしょう。
まだまだ人材不足の妖精王国でした。

王様の前に膝を着いたのは仕立屋を名乗る妖精でした。
「ごけんじょうのしなです?」
献上品を両手に抱えてうやうやしく差し出します。

国民全体の注目を集める王様は最高の広告塔です。
これを着て人前に出てもらえれば宣伝効果はバツグン。
王室御用達商品として名が知れ渡れば売り上げアップも間違いなし。
定期購入の常連さんになっていただきたい。
伏せた瞳によこしまな考えを隠します。
是非に、と差し出す腕を高くしました。

献上品は見た目もやわらかな素材で織られた服飾製品。
黄金色の菓子じゃなかったことに王様が少しがっかりしていたのは秘密です。

「むかしむかし、みずとうみこえたあっちのくにの、じょーおーさまがきてたがうんです?」

それを再現して織ったのだと仕立屋は説明します。
大好きな人間の真似をする、それは妖精の本能のようなもの。
これ以上の贈り物はないと自負していました。

「えっ?」「ぱくり?」「それ、あかんやつや」「おまーじゅゆっとけば、せーふ?」

様子を見ていた国民からどよめきがわき起こりました。
あまりいい印象を持たれなかったようです。
自分たちもいつもやってることは棚上げして、他人にはちょっぴり厳しい妖精さんでした。

しかし、受け取った王様は違いました。
畳んであった献上品をぱさりと広げ、ひとつうなずきます。
これを着れば人間とお揃いになれる。それは耐えがたい魅力です。

「おきにいりました」

人間と同じ服が着られるなら大歓迎。
これはとてもいいものだと太鼓判を押します。
受領書がなかったので仕立屋の額に、赤いインクが王様印を描きました。
これで取り引き完了です。

ボタンをはずし、王様が着替えを始めました。
お城がないので着替え部屋もありません。
仕切りすら用意されていないのは悲しいものです。
ぱんつまるみえでした。

「きゃーっ!」「なまきがえきたー!」「おうさまのえっちぃ!」「おひねりは、おぱんつにつっこめばよろし?」

支持率百パーセントを超える盛り上がり。
大喜びの国民でした。
王様の一挙一動が国を明るく導いていくのです。

国民が喜ぶ。
それは王様にとっての喜びでもある。
気分がよくなってきた王様は国民へ言葉を投げかけます。

「おぱんつはいてるからはずかしくないもん」

名言の誕生でした。
国が繁栄して歴史を刻み続ける限り語り継がれることでしょう。

その言葉が表すとおり、きゃっぷはどうどうとしていました。
頭に王冠が乗っているのでまだ王様です。
これにネクタイでも着ければ立派な紳士王になれます。
人間最強の男と並ぶ地位です。
仮面ダンスパーティーにも出ていけます。
ですが、今回の目的は献上品の試着なので普通の王様で続行します。


王様の体型に合わせて作られた献上品のガウンはすべすべ滑るような感触をしていました。
袖を通してご満悦。
新しい服は気持ちのいいものです。
さすが人間の女王様に献上された品のレプリカといったところでした。

国民の前に向き直ってかっこよくお披露目といきたいところでしたが、ここからがすべりのいい生地の本領発揮です。

しっかりと前を合わせ帯を結んで留めていたはずの襟元が脱力したように弛みました。
着用者をやさしく包み込むという役割を放棄します。
はらりと肩が露出。
チラ見えもいいかも、なんてセクシー衣装を満喫する暇も与えず露出部位は広くなっています。
腕や腰に引っかかることもなく、するすると脱げて下へ下へ。
重力が仕事をします。
元のぱんつまるみえ姿に戻ってしまいました。
献上されたガウンは足元を隠すだけの布と成り果てました。

なんとも間抜け。
これには熱狂的に王様を持ち上げていた民衆もがっかりした様子でした。
国民の心を掴み続けるというのはいつの時代もとても難しいものです。

王様も困りました。
こんな予定ではなかったのです。
「がうんがだうん」
場を取りなすつもりのジョークも滑ります。


「あ、おもいだした。じょーおーさま、ぬげぬげになるからきなかったんだた」

言うのが遅すぎる情報です。
これを聞いていたら王様は恥をかかずにいられたでしょう。
仕立屋は、てへっと笑いを残して逃げ去りました。
追いかけて捕まえる兵士はいません。
だんだんと人手不足がつらくなってきました。


シーンと静まりかえった妖精王国に肌寒い風が吹き抜けます。

「かっちょわるいです」「つっこみまち?」「でも、いちおーほめとく?」「くうきよんでほめる、ぼくらかしこい」

ひそひそ
国民は声をひそめて相談します。

「わー」「おーさま、ちょーせくすぃ」「かざらないすがおがすてっき?」「はだかのおーさま、ばんざーい」

熱が冷めた棒読みが王様の心に突き刺さります。
ぱんつをはいてるのに恥ずかしい。
どこか遠くへ逃げ出したい気持ちでいっぱいの王様でした。


この様子を少し離れた場所から見つめる人影ならぬ妖精影がひとつ。
楽しそうな気配を嗅ぎ取ってやってきましたが、この光景に思わず足を止めてしまいました。
彼の名前はさー・くりすとふぁー・まくふぁーれん。
長い名を継ぐ貴族の末裔でした。
仲間に入りたくてやってきたのに、この空気はどういうことでしょう。
国民と王様、双方の間に視線を行き来させてもいまいち読めません。

なんだかよくわからないけど、できることをしよう。
臆することなく廃タイヤに上ります。
貴族妖精氏は自身の上着を脱ぐと、震える王様の肩にかけてあげました。
ぱんつまるみえの姿を放置しておくことができなかったのです。
ぬげぬげガウンとは違った肌触りの、高級な布地で王様の体をやさしく包み込みます。

「しんしだ」「ほんもののしんし」「ぎゃくからよんでも、しんし」「じょうはんしん、はだかのしんし」

彼こそが本物の紳士。
国民も認める高貴な輝きでした。


「きみをだいじんににんめいするです?」

彼のやさしさに救われた王様は、その手を取ります。

「このくにがほろぶひまで、そばにいてささえてほっしーの」

「かしこまりまして」

妖精王国の住人がひとり増えました。

こうして妖精王国は長く栄えたといいます。
妖精にとってはとても長い五日もの歴史を記録しましたとさ。

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