幼馴染だった。本当に、ただそれだけだった。それが今では恋人を越え夫婦にまでなっている。幼かった頃の自分たちでは想像もできない変化だろう。それにかなでが誰かと結ばれるならそれは律だろうと思っていたから、余計に。だから時折この幸せは夢なのかと思ってしまう時もある。だけど、かなでは他の誰でもない響也の隣で微笑んでいた。夢ではない確かな温もりがそこにあると感じる度に、響也は幸せをかみしめる。この幸せに慣れることなどできないのだろう。最上の幸せがやってきたと思った次の瞬間にはそれを上回る幸せがやってくる。それの繰り返しだ。それにかなでがいる限り自分はどんなことも乗り越えていけると思える。あの夏から八年。あの夏に乗り越えてきたように、いろいろなことを乗り越えてきた。一人では辛くても、二人なら。そうやって二人で支え合って進んできた。これからも、それは変わらない。

「響也ー」
「ん?」
「見て見て!すっごく懐かしいもの見つけたの」
「おまっ…バッ、走るなって言われてんだろ!転んだらシャレになんねぇんだぞ!?」
「小走りくらいで大袈裟だって。大丈夫大丈夫。危ないことはしないよ」
「お前の場合、歩いてるだけでも危なっかしいんだよ」
「あ、ひどい!」

八年が経って大学を卒業してもかなでは昔と変わらなかった。相変わらず、小さなことで響也を心配させる。ドジを踏んで被害を受けるのがかなでだけならまだいい。そんなことは小さい頃からありすぎて今更珍しいことでも何でもないのだから。それにその時は自分が手を差し伸べてやればいい。だが今のかなでに万が一のことがあれば、それはかなでだけの問題で済まなくなるのだ。

「響也と私の子供だもん。ちゃんと守るよ」
「頼りねえなあ」
「ちゃんと信頼しなさい!」
「あははっ、わかってるって。お前は頼られたからにはやり遂げる奴だもんな」
「わかってるなら良いんです。響也先輩もしっかりして下さいね」
「何だそれ、ハルの真似か?似てねえな」
「えー。結構自信あったんだけど」

むくれる彼女を見ていると当の後輩が「似てません!」と抗議する顔も思い出せるから不思議なものだ。あれから八年も時は流れてしまった。永遠という時間はないと理解していても寂しく感じてしまうのは仕方のないことなんだろう。

「んで、一体何を見つけたんだよ?」
「あ、そうだった。ほら、これだよ。ニアにもらったアルバム。学校行事だけじゃなくて全国大会のときの写真とかもあって懐かしくなっちゃった」
「ああ、そういやアイツ報道部でいろんなモン撮ってたからな。見せてみろよ」

かなでの差し出したアルバムに目を通せば、そこには輝かしい過去の写真が沢山収まっていた。体育祭や文化祭にはじまり、卒業式まで。そして忘れることのできない夏の全国大会―――。大会の写真には星奏以外の生徒ももちろん写っていた。仙台の至誠館、神戸の神南、そして横浜の天音学院。懐かしい顔ぶれの彼らがそこにはいた。

「…やっぱりアイツ、写真上手いな」
「そりゃ報道部ですから!」
「その名は伊達じゃない、ってか。ほら見てみろよ。スイカ割りではスイカが割れる瞬間を上手く捉えてるし、バーベキューとかいつの間にこんな撮ってたんだよ。アイツもかなり食ってたはずだろ?」
「あ、バーベキューのは私の写真もちょっと混ざってるんだよ。ニアにカメラ貸してもらったの」
「は?」
「えっと…あ、これこれ。この響也が必死になってる写真、撮ったの実は私」
「はあ!?」
「これは撮らなきゃ、って思ったんだもん。我ながらいい写真だよね〜」
「お前って奴は…」

撮った相手がニアならばもっと声を荒げていたのだろうが、かなでなら何も言えない。かなでに対してだけとにかく甘い響也は八年経っても健在だった。かなでに甘いという自覚が自分でもあるから響也は内心で苦笑を零す。

改めて写真に目を落とせば、どうしようもない懐かしさがこみ上げてくる。あの頃を懐かしいと思い返すような歳に響也もかなでもなってしまっていた。

「―――楽しかったな。あの時の全国大会」
「うん…すっごく楽しかった。みんな、今頃何してるんだろうね」

あの夏を忘れることなどこの先何年経ってもできないのだろう。それくらい、あの夏は二人にとって大切なものだった。

「でもね、響也。私、今すごく幸せだよ」
「な…んだよ、突然」
「あの夏は楽しかっただけど、今は幸せ。響也は幸せじゃない?」
「…幸せに決まってんだろ。当たり前のこと聞くな」
「ずっとこの幸せが続くといいね」
「バーカ。続けさせるんだよ。幸せは神に頼んで待ってるもんじゃなくて自分の手で掴むもんなんだから」
「…うん!二人で幸せを探していこうね」
「ああ」

探さずとも己の幸せは目の前で笑っている少女そのものなのだが、口にするのは恥ずかしすぎるので黙っておいた。代わりに彼女を優しく抱き寄せる。八年前…己からしてみればそれこそ十数年前から変わらない想いを囁けば、少女の顔に笑みが広がった。











未来がテーマと聞いてまず浮かんだのが響也とかなでちゃんが子供の名前を考えている場面でした。贔屓ですスミマセン←
でも"響"と"かなで(奏)"なんだから子供の名前も考えたくなるじゃないですかー、とか言うと"律"なんかもいたりするので妄想が止まらなくなります。ですが今回は結局子供の名前の話を出すことができなかったのでそれだけがとても心残りです。いつかリベンジする機会があればリベンジしたいと思います。一応名前は考えてあるので。
若干どころか全くお題に沿えていない気もしますが二人の幸せが少しでも伝われば嬉しいです。

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。



君と過ごす夏様提出