ニアが言っていた「池に初恋の人が写る」なんて話は信じてない。信じてないけれど…私の初恋は、確かに律くんだった。





あなたに通じる私の想い





蝉の声が聞こえなくなり、日が短くなっていく。もう、夏が終わりを告げていた。私にとって…私たちにとって忘れることのできない大切な夏が過ぎていく。…それでも、夏が過ぎても、過ぎ去っていかないものが私の中には確かにあった。

「律くん」
「…かなで。どうした?」

演奏会の後に届いた冥加さんの手紙で転校を決めた。きっかけは確かに手紙だったかも知れない。だけどあの手紙に挫けることなく転校を決意できたのは、律くんがいてくれたからだと思うの。律くんがいなければ私はどうしたら良いのかもわからずヴァイオリンをやめてしまっていたかも知れない。律くんが私に道を示してくれたんだ。

「部長…引退なんだよね」
「ああ。次期部長は響也に任せようと思っている。本当はお前と迷ったんだが、大地が響也を部長にしたがっていたから」
「大地先輩が?」
「響也はこの夏で目に見えて成長した。今のあいつに足りないのは皆の上に立ち皆をまとめる力だけだ。…と、そういうことらしい」
「あはは。でも響也に部長なんて務まるかな」
「だからこそ副部長はお前なんだ。お前は副部長として響也を支えてやってくれ」
「もちろん!」

夏が終われば律くんたち三年生は引退を迎える。私たち二年生がこれからのオケ部を引っ張っていかなきゃいけないことにプレッシャーは感じるけれど、今のオケ部のメンバーなら何だってできる気がする。だって律くんと大地先輩が育ててきた演奏家なんだもの。銀のトロフィーを守り続けていくことだって不可能じゃないんだと思えるよ。

「かなで」
「うん?」
「その…響也のことは支えてほしいんだが…あまり、響也にばかり付きっきりには…ならないでほしい」
「え…」
「いや、だから……上手く言えないものだな。かなでが他の男と親しくしているのが面白くないんだが…相手が響也なら今更か?」
「律、くん…」
「嫉妬なんてみっともないが、どうしようもないんだ。それくらいお前は俺の中で大きな存在になってしまった。…本当に、みっともないな」
「ううん、そんなことない!嬉しいよ?律くんってそういうところは本当に鈍いから…ちょっと吃驚したけど」
「そうか。いや、お前がそう言ってくれるなら良いんだ」

再会したばかりの頃はただの幼馴染でしかなかった私たちは、大会の終わりと同時に恋人同士になった。律くんの呼び方も小さい頃と同じように「かなで」に戻り、以前より距離も縮まった。

「でも、律くんって本当に鈍感だったなあ〜」
「そういえばいつだったか…部の用事であることを伝え忘れてお前を呼び出したとき、お前はデートだと思っていたんだったな」
「は、恥ずかしいから思い出させないで…」
「あの頃からお前は俺をそういう風に見てくれていた、そういうことなのか」
「………律くんの鈍感っ!」
「はは。そう怒るな、かなで」
「〜〜〜っ!」

そう言って私の大好きな笑顔で微笑むから、本当は律くんは確信犯なんじゃないかと思うこともある。

「人を想う気持ちというのはいいものだな。想われるのも、悪くない」
「………」
「想うのも想われるのも…相手がお前だからこんなにも心地良いのだろうな」
「…恥ずかしい」
「本音なのだから仕方ないだろう」
「それじゃあ私の本音も聞いてね!絶対恥ずかしいんだから」


通じ合った想いはどれだけ季節が過ぎ去っても消えることなくあり続ける。

私の想いとあなたの想い、これからもずっと残り続ければいいな。

「律くんが大好きです。きっと、ずっと前から…大好きでした」
「ああ…俺も好きだよ」


(あなたに通じる私の想い)

(私に通じるあなたの想い)


(消えることなく、あり続ける)


(きっと、ずっと、いつまでも)











かなでちゃんをちょっと大人っぽくしすぎたかも知れません。書き慣れてない感が…(汗)
拙い作品ですが、ここまで読んで下さりありがとうございました。



君と過ごす夏様提出