あの時、六人で
「「海だーー!!」」
「青峰っち!海まで競争するっス!!」
「ぜってー負けねぇ!てか、負ける気がしねぇ」
帝光中男子バスケ部は全中も無事終了し、打ち上げと称して、海に来ていた。
青峰と黄瀬は一秒でも早く海で遊びたかったのか『浜から海までどっちが速くつくかレース』をしていた。
「まったく。はしゃぎすぎなのだよ。子供ではあるまいに。」
そう緑間は浮き輪にプカプカと浮かびながら言い放つが、
「緑間君…その浮き輪は何ですか?」
「っ!これは今日のラッキーアイテムなのだよ!別に、ラッキーアイテムで無ければ持って来るつもりはな、無かったのだよ!!」
緑間はラッキーアイテムである『白鳥の浮き輪』を見やり、頬を赤らめながら黒子に言った。
「(つまりは、緑間君も海が楽しみだったと。)」
本当は本人に言ってみたかったが言うとまた
ポコポコと怒るので心の中に閉まっておくことにした。
「そういえば、先程から周りの女性の方々がこちらを見ながら言ってましたよ。あの顔で白鳥の浮き輪…!?、と。」
「ふん。言いたい奴等には言わせておけ。
俺は人事を尽くしているまでだ。」
「…そうですね。」
黒子がそう言ったのを最後に会話が途切れ、
二人は波に身を委ね、気持ちよさそうに浮いていた。
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「っしゃあーーー!俺の勝ちぃぃぃぃ!!」
「青峰っちに負けるとか屈辱っス!!」
「ちょ!?ヒドくね!?」
結局、レースの勝者は青峰だった。横で、屈辱的だ、なんだといって悔しがる黄瀬。
それを、写真におさめている人が一人。
我らが主将、赤司様だった。
「ふふ…涼太が悔しがってる写真を売りに出したら、さぞやたくさん売れる事だろうね。」
「赤ひーん。ほれ、ひゃってひひの?(赤ちーん。それやっていの?)」
横で、紫原がグレープ味のかき氷にがっつきながら問う。
「いいんだよ。売り上げは全部部費になるんだから。」
「ほっか。はらひっひゃー(そっか。ならいっかー)」
こうして、キセキはそれぞれ思い思いに海を満喫した。
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[あー楽しかったっスねー!俺、久々のオフでこうやって皆で海来れて良かったっス」
「あー…疲れた…。I'm tiredー」
「わー峰ちん、凄いねー。私は疲れたって言えるようになったんだー」
「一つ、また学習したのだな。アホ峰。」
「ほんの少しだけ賢くなりましたね」
「僕としては、せめて大輝は『I'am tired Play in the ocean because is was too.』くらいは言える様にしておいた方が良いと思うけど。」
「うぇ…なんだよそれ。」
「あははー峰ちん馬鹿だー。あれは『私は、疲れました。なぜなら、海で遊びすぎたからです。』って意味だよー。
そうだ、峰ちん“うましか”って知ってるー?」
「あ?何だそれ」
「“うましか”を漢字に直すと…こやって書くんだよー。」
紫原が笑いを堪えながら何処からかメモ帳とペンを出し、「馬鹿」と書いた。黄瀬は笑いを堪えられずに爆笑していた。
「ん?……おめぇに言われたかねぇよ!!」
さすがの青峰でもその漢字は読めたらしく、紫原に向かってぎゃあぎゃあと喚いていた。
「でも、紫原君の方が頭が良いのは事実です。」
「そーっスね(笑)」
「人事の様に笑ってましたけど、黄瀬君も大概ですよ」
「黒子っち酷い!!」
「黒子の言った事は間違ってはいないのだよ」
などど、他愛の無い話をしながらそれぞれの家へと帰っていった。
キセキ達6人がこれを最後にプライベートや部活でもで揃うことは無かった。
なぜなら、この数日後に、黒子はバスケの世界から身を引いた――つまり、バスケを辞めたのだから。あの時、六人で(おもえば、中学3年の)
(あの時期が)
(俺達にとって)
(一番)
(幸せなひと時だったの)
(かもしれない。)