甘いものは苦手





…終わった…。腕を上に突き上げ、グッと伸びれば背中がパキリと音を立てた。やっぱり長時間の同じ姿勢はどうしても慣れなくて辛い。椅子から立ち上がれば長い時間座っていたせいか足が少しふらついた。そのままキッチンへと行きコーヒーを淹れる。どっかの誰かみたいに子供舌ではないし甘党でもないから臨也はいつもは何も入れないが、なんとなく砂糖を溶かしてみる。新羅の家で見た、彼が入れているのと同じ分だけ。

「…甘いな」

苦笑してカップを置く。やっぱり自分にはこの甘さは苦手だ。よくこんな甘ったるいものを飲んでいられるもんだな。

「波江さん」

「…何」

「甘いの平気かい?」

「あまり好きじゃないわね。でもあなたの飲み残しなんて飲まないわよ」

バレたか。またも苦笑しながら波江に向かってそう言えばそれぐらい分かると一蹴された。まぁもとから冗談のつもりだからいいのだけれど。さぁ、この甘ったるいコーヒーはどうしようか。捨てるのもなんだか勿体ない気がする。

「帰るわ」

「お疲れ様」

臨也が一人で考えているあいだに終わったらしい波江は素っ気なく帰っていった。あのブラコン野郎め。もうすこし優しくてもいいじゃないか。一人心の中で呟く。とにかくこれは自分で飲むしかないかな。そう思いカップに口をつければ、タイミングよくインターホンが鳴る。波江か?いや、あいつが忘れ物なんてないだろう。飲もうとしたカップを置き、扉を開ければ、見慣れた金髪のバーテン服が立っていた。

「何?」

「…なんとなく」

邪魔する。勝手に家に上がり込み、我が物顔でソファを占領して煙草を吸い始める。なんだこいつ。

「なんとなくって…」

意味がわからない。いつも喧嘩してるくせにいきなり上がり込んできて…本当にこいつのすることは理解できない。

「お前んとこの女に」

唐突に口を開く静雄を呆れ気味に見れば、来客用の灰皿に短くなった煙草を押し付けていた。俺のところの女…波江か。あいつがなにか言ったのか。

「行ってやれって言われた」

…は?なんで天敵同士を会わせる必要がある。でも静雄が殴り出さないところを見ると喧嘩をしにきたわけでは無さそうだ。じゃあなんのために。

「なんで?」

「…あの人は貴方が好きらしいから誕生日くらい顔合わせてやってくれ、飲めないくせに甘いコーヒー入れるなんて分かりやすい事するような馬鹿に成り下がって困る、だとよ」

静雄は二本目の煙草を取り出してまた火をつける。…誕生日。そうか、今日は俺の誕生日か。そこまではいい、誰が好きだって?いや、確かにたまに思い出したりするけど、たまに会いたくなるけど…たまにだ。好きなんかじゃない。好きじゃない、はずだ。

「臨也」

臨也がびくりと反応するが静雄は臨也を見ていないのでお構いなしに言葉を続ける。

「俺は、好きだぞ」

…そんなこと言われたらドキドキするけど、そんなんじゃ認めざるを得ないじゃないか。…いいよ、もう認める。そしたら自分は彼が好きで、無意識に彼に会いたがっていたということだ。認めたらそんな簡単なことだ。

「じゃあ、両想いだね」

くすくすと無邪気に臨也が笑いかければぴくっと静雄が身動ぎする。彼の煙草はもう短い。それに気付いたらしくまた同じように押し潰す。その一連の作業を眺めた後、ソファに座る彼の背中に抱きついて頬にキスすれば静雄は音が出そうなほど一気に真っ赤になり、両手で顔を隠してしまった。可愛いねと耳元で言えば小さく死ねと返ってきた。そんなの言ったって可愛いだけだ。でも誕生日なんて自分でも忘れていたのに。よくあの女が覚えていたもんだ。取り合えず、何かお礼ぐらいはしてやろう。お礼はシズちゃんに一番甘いケーキでも選んでもらおうかな。







臨誕記念!
美形情報屋ちくしょう愛してるさっさと結婚しろリア充め



(2011/05/04)