終わりの季節



※来神時代








卒業、か。卒業式を終えてもなんだか実感がわかない。特に将来願望もない静雄は大学には行かず働くことになるのだが、それもなんだかまだ先のような気がする。戻ってきた自分の教室の窓から下を覗けば、卒業式を終えた自分達3年生が続々と下校していくところだった。そのなかの女子たちは学校を背に写真を撮っていく。そんなのばかりで校門は随分とこんでいた。空いてから帰ろう。そう思って、みんなが羨ましがった窓際の一番後ろにある自分の席に座る。

「帰らないの?」

開けっ放しにした扉から一番会いたくないやつの声がする。無視して外を眺め続ければつれないな、と言いくすくすと笑うのが聞こえた。

「…卒業ねぇ。短いようで長いような…まぁ俺の高校生活はシズちゃんのせいでめちゃくちゃだったけどさ」

「それはお互いだろ」

不機嫌に臨也を見、ため息を吐く。どれだけ高校生活を台無しにされたか。全ては臨也のせいだ。

「それもそうか」

苦笑する臨也は静雄の前の席に座り、一緒になって外を眺める。

「俺さ、新宿に引っ越すんだ」

外を眺めたまま臨也は呟く。無意識に静雄の体はピクリと反応していた。それに気づかないふりをしながら続きを紡いでいく。

「引っ越しても池袋にはくるから、シズちゃんは引っ越したらだめだよ」

静雄が臨也を見れば臨也はもう静雄を見つめていた。目が合えば臨也の口角は上がり楽しそうにくすくすと笑う。

「なんでだよ」

なぜ笑うのか意味がわからず不機嫌に言えば臨也はいきなり距離をつめてくる。吐息が触れ合う程の距離。いきなりの事に対応できず、まして後ろに下がることなどできなかった。

「な…、」

「だってシズちゃんに会いに池袋に行くのに、肝心のシズちゃんがいないんじゃあ意味がないじゃないか」

静雄の頬を撫でながら臨也はまたくすくすと笑う。自分の顔に熱が集まるのがわかる。臨也相手に何をしてるんだ自分は。

「シズちゃんに会いに行くだけってわけでもないけど」

顔を離し口角を歪める臨也はもういつもの臨也で。でも今はそれに苛ついてる余裕なんて静雄にはなかった。

「俺は帰るけど、シズちゃんも早く帰んなよー」

そんな静雄をまた笑いながら教室を出ていく臨也。それに文句を言う余裕も静雄にはなくなっていた。

「なんなんだよ…」

誰も居なくなった教室で静雄は一人赤くなっているだろう顔で机に突っ伏した。




「俺は帰るけど、シズちゃんも早く帰んなよー」

臨也はそう言い教室を出る。廊下に出てからは階段までは走った。そんなに教室から距離があるわけではないけど、静雄の居るあの教室からは早く離れたかった。

「…あれは…反則だろ…っ」

彼は階段をゆっくり降りながら軽く口許を押さえる。

「…可愛すぎなんだよ」

あんな静雄は見たことがない。まさかあんな顔をするとは。彼ならきっとまた死ねとでも言うと思っていたのに、あんな反応されたら困る。本気で言った訳じゃなかったのに。

「これだから童貞は…」

言い訳のように一人呟き臨也は帰路を歩いていく。当分はあの赤い顔が忘れられなそうだ。池袋は仕事で行くだけだと思っていたけど、静雄をからかいに行くのも悪くないかもしれない。あの赤い顔を見れるのなら。








皆さん卒業おめでとうございます。

(2011/03/24)




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