「佐吉イィィイィ!!姫ーーっ!!」
長浜城に響いた絶叫。
小姓の虎之介(後の清正)がどたどたと廊下を駆ける。
五月蠅いな、とでも言いたげに紀之助(後の吉継)が襖から顔だけのぞかせる。
「どうかしたの?お虎」
「佐吉と姫に…っ」
虎之介が自分の顔(主に額)を指差した瞬間、紀之助の爆笑が響いた。
「おー、どしたの二人とも……って、ぶふっ!」
弥九郎(後の行長)が思わず吹き出す。
虎之介の眉は太く繋がっていて、何より紅で額に“肉”と書かれていたから。
曰わく、寝ている間に書かれたらしい。
羽柴きっての悪戯小姓佐吉と姫によって。
以前も、眠っている虎之介の鼻の穴にちり紙を丸めて詰めてさり気なく呼吸困難に陥れたり(本人達に悪気は無い)、銀髪を染め上げてやろうなんて顔料を集めて準備してねねに見つかり未遂に終わったり(本人達に悪気はry)、虎之介のお気に入りの書物に秀吉の門外不出の春画を挿んでおいたり(本人達にry)
すべての悪戯の被害者は虎之介で、すべての悪戯の加害者は佐吉と姫なのだ。
「佐吉…っ、なん…、…肉…ッ、ぷふっ」
「……ッ、ごめ、お虎…、今みたら、笑っちゃう…っ」
明らかな悪意の含まれる笑いに、虎之介は本気で嫌になった。
(やった、佐吉!成功したよ!)
(次はどうやって虐めるか…)