青い彼女は泡になってとけたのです



「こんにちは、赤村くん」
「………えーと、どちら様ですか」

目の前に現れた、ウェーブのかかった水色の髪の毛の女性。包帯をしている。いや、よく見るとあちこちボロボロだ。
何やら親しそうに話し掛けられたけど、俺は全く知らない。少なくともこんな綺麗な人は知り合いにいない。

「あれ?黄村ちゃんにきかなかった?」
「いや、知らないっすね」
「そっかー」

なんか軽そうな人だな。ていうか黄村の知り合いか………。ということは携帯か何かか?

「私は黄村ちゃんの所有者のお兄さんの携帯。……えーと、まぁルシファーとでも呼んで?」
「はぁ……」
「警戒してる?しなくていいのに」

いや、してるわけじゃないんだけどな……あんまり人と話すの得意じゃないだけだ。なれてない。
ルシファー……さん?とやらは何かクスクス笑ってる。あれ、もしかして俺笑われてるの?

「な、なんか用なんですか」
「あぁ、そうだった。ちょっと新しい携帯さんにお話があって」
「俺、すか」
「うん。大事なお話」

真剣な顔になるルシファーさん。少し悲しそうだ。
なんかここに来てから、悲しい顔ばかり見てる気がする。

「あのね、私、今月でさよならなんだ」
「え、……?」

いきなりなんだ?さよなら?どういうこと?

「いきなりごめんね。私今月で解約なの。さよならなの。多分リサイクルされると思う」
「は、え、」
「どう思う?赤村くん」

ずい、とルシファーさんの顔が近くなる。青紫の眼が見えた。それは、少し歪んで見えた。
どう思う、ときかれても。ていうか何故俺にきくんだ?嫌みか?

「……ごめんね、赤村くん困らせちゃったね」
「いや……」
「知っておいてほしいんだ。消えていく者の、気持ち」
「あ、……」

さっきのは嫌みでも、なんでもなかった。
ただ純粋な、この人の心の中。

「これは私だけかもしれないけど、実際消えるとわかると、無心になるものなんだよ。何と言うか、放心状態に近いのかも。けれどやっぱり切ないし悲しいし、複雑」
「………」
「何か質問あるー?」

なんだこのフリーダムな人。語り始めたと思ったら質問とか………まぁ聞きたいことあったからいいけどさ。

「はーい先生」
「赤村くんなんですか?」
「なんで黄村に言わないんですか?」

そうだ、俺に言わずに知り合いである黄村に言えばいいんだ。
なのになんで俺に言ったのか。

「それは黄村ちゃんが泣いちゃうからです」
「……なるほど」
「それから、これから先伝えていくなら、新しい人の方がいいでしょ?言ったじゃない。知っておいてほしいって」

そういうことか。

「あともう一つ」
「なんですかー」
「憎くないのか?所有者が」
「……」

キョトンとするルシファーさん。
普通自分を消す張本人が憎くなるんじゃないのか?黄村は消されてないから違うと思うけど。

「なんで?」
「なんでって……」
「憎くなんかないよ。今まで大切にしてくれたんだもの。こんなにボロボロになっちゃったけど、消されちゃう運命だけど、でもやっぱり、憎めないよ。大好きだから」

この人は本当純粋で真っすぐで可哀相だ。
いや、こう考える俺が一番可哀相だな、うん。

「やっぱり、黄村には言わないんですか?」
「私はこっそりいなくなるよ。黄村ちゃん泣かしたくないから」
「そうすか……」
「じゃ、もう行くね」

俺に背を向けるルシファーさん。
ボロボロなのに綺麗に見えた。

「ああ、そうだ」
「?」
「頑張ってね!」
「……はい」

そして、ルシファーさんはみえなくなった。
携帯って、意外と複雑なんだな。
なんかこわくなってきた。
けど、頑張らなきゃな。









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