赤い彼のさいしょ



初めて会った時は後悔の色。
出会ってから三日目。今は違うけれど、たまに見えるさみしそうな色。

俺は、ここにいるべきなのか。

所有者が俺と初めて会った時、期待の色の中に後悔の色が見えた。
隣に置かれた、黄色の髪の女の子。携帯だろう。見えたのは、切なくて悲しそうな色。
多分この人は俺の前の携帯。結構古い機種みたいだ。

二人もの人を悲しませてまで、俺はいるべきなのか。

家につけば設定をはじめる所有者。
上手く使いこなせなくて涙目になっていた。
みえたのは、悔しさと、やっぱり後悔の色だった。

「改めてはじめまして、SH001です」

そう言ったら所有者は少し悩んでから、「赤村」と呟いた。
何の事かわからない俺は黙ってしまった。そんな俺を見て、所有者は少し笑いながら、「お前の名前だよ」と言った。
正直驚いた。だって、俺がきいた話では、携帯に名前をつけるなんてことはまずありえなかったからだ。
アドレスにも赤村という文字を入れた所有者は、親と兄に馬鹿にされながらも少し嬉しそうだった。俺もうれしかった。
だけどたまに見せる悲しそうな色が、怖かった。


「こんにちは、携帯の黄村っていいます」


知ってる。
所有者が何度も「黄村さんがいい」って言いながら操作してたから。
悲しそうな色出すなよ、お前は愛されてるんだから。

充電器の黒蜜だって
イヤホンの白玉だって
SDカードの黒飴だって
所有者だって
皆お前が大好きなんだ。

俺はお前のもってない機能をもってるけど、
お前は俺のもってない、機能よりも大切なものをもってる。
だから悲しむ必要なんかないはずだろ?

いつか、お前みたいになれるかな。いつか、所有者が悲しそうな顔しないで俺を持ってくれるかな。
いつか、俺がお前みたいに引退した時に、一緒に悲しんでくれる奴ができるかな。

妬んでないさ。
ただ、羨ましいだけなんだ。


名前をつけられて、
こうやって人の形とされたなら、
愛される権利、
あるはずだよな。

俺は赤村。
携帯だ。
だけれど、この与えられた足で、
これから一歩一歩、進んでいく。







prev | next




 
×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -