ぜんぶのはじまり



楽しみだった。
私を所有する人は誰だろう?
私と同じ種類の子達は皆買われていった。
私も、もうすぐかな?
ワクワクはとまらない。
仲間達は皆すぐに買われていったから、私もそう遠くないだろう。

まだかな。まだかな。
早く自由に、



『一つだけあったよ』
『本当?よかったねー』
『あ、うん』


あの子かな?私の所有者。
何だかテンション低め。
どうしてかな?お店の中だからかな?
やっと外に出れる。
それがすごく嬉しかった。
私の所有者であるこの子も、テンションは低めだけど、目は嬉しそうだった。

お店から出たあと、やっぱりテンションが低いのはお店の中だったからみたいだった。


『うへへ!初めて自分で選んだ携帯!』
『ほら、早く行くよ』


あと少しで、私はこの子と顔を合わせる。



「はじめまして、W43SAです。これから宜しくお願いします!」

(私が役目を終えるまで、ずっと貴方のために。)




「…ふぁ……」
「おはようございます」

目を開けると、そこには黒飴がいた。
どうやら充電が切れてて寝てたみたいだ。
懐かしい夢を見たな……うん、あの頃の私は純粋だった。

「良い夢でも見たんですか?」
「え?」
「何だか、すごく嬉しそうにしてるんで」
「あー、うん、ちゅとね」

あれから二年とちょっと。
水没させられたり落とされたり踏まれたり蹴られたりしたけど、名前をつけてくれたり、一応大切にしてくれたり。

私はこれからも頑張っていきたいと思う。
でも、所有者の為だけじゃない。
私が今、動いていられる時間を精一杯いきていたいから。


(貴方のために、)
(私のために。)

終わり。







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