掴めなかったもの



『赤村本当ごめん』
「もういいって、ちょっといい加減やめてくれ」
『だって私の不注意のせいだし、ううう…ごめんよううう…』

前で所有者が呻いている。
確かに記憶はなくなって不安なことに変わりなく、所有者の不注意で記憶がなくなったのも正しい。

だけど黄村達のおかげで俺はもう立ち直ったし、所有者もいい加減にしてほしい。俺の記憶、というかデータが消えてショックなのは所有者も同じなんだから、俺に謝るのはなんか違う気がしてならない。

その消えたデータは戻ってこないが、今ではそれぐらい(又はそれ以上)のデータがある。俺の自我を構築するぐらいのデータは揃っている。それでいいじゃないか。

「前みたいに接しろよ」
『その“前”を覚えてないくせに』
「黒飴に教えてもらってる。俺を散々罵って黄村を溺愛という事実をな」
『否定できない恥ずかしい』

今でも所有者の黄村バカは健在らしく、いつ黄村たんハアハアとか言い出してもおかしくはない。いや、言わないだけで思ってるかもしれない。

馬鹿馬鹿しくなってきたから、俺はデータの整理を始めた。所有者が無駄に写メったゲーム画像等など、嵩張ってきたからな。

『赤村さ、何かしたいことある?』
「したいこと?」
『ほら、黄村達に色々教えもらったでしょ。それで何かないの?』
「猫に囲まれたい」
『確かに前も言ってたけど、それはお前の本能だろ』

却下された。異議を唱えたい。
あ、やばい。所有者と同じゲーム脳になりはじめたかも。

(……やりたいこと、か)

やりたいこと。前やっていたことは今もやっていると思うし、特にあっただろうか。


(あ、)


ふと頭を過ぎった姿。
黒髪の、背の高い。

誰だっけ、この家のやつじゃないな。そうだ、黄村に教えてもらった。
俺の、親友。

「所有者」
『お、なにか?』



「会いたいやつがいるんだ」




end

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あの時持てなくなった希望を持とう





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「見えない臓器の名前は」
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