2020/09/26 17:12

 風呂上がりに食べるアイスが好きだ。少し熱いくらいのシャワーを浴びて火照った身体のまま、濡れた髪も乾かさずに食べるアイス。冷凍室から取り出したばかりでまだ溶けていない表面をスプーンで削るようにして食べる。口の中にじんわりと広がる甘さと冷たさは火照った身体には調度いい。食べ進めていくうちにカップを握る手の体温で少しづつ溶けて柔らかくなり、最後にはシェイクのようになったそれを、行儀悪くスプーンでかき集めるようにして最後の一滴まで飲む。
 夜遅くにアイスなんて体重のことを考えると良くないことだとはわかっているけど止められず、なんだかんだ言いながらも毎日同じことを繰り返しているせいかマホイップもそれを覚えた。
「はーい、マホイップおまたせ」
 ただ一口のおすそ分けをもらうために私が風呂から上がる頃、音もたてずにじっと扉の前で出てくるのを待っている。じっとこちらを見上げる目はいつもよりも輝いているように見えた。
 早く、と急かすように私の前を一生懸命歩くマホイップをゆっくりと追いかけるように冷蔵庫へと向かう。それにしてもマホイップの後姿を見ているとパフェを食べたくなってくる。透明な背の高いグラスに盛られた生クリームにアイス、それから色とりどりのフルーツ……今度一緒にマホイップ誘って食べに行こうかな。
 冷凍室の扉を開けると横からマホイップも覗き込んでくる。今日は何にしようかと選んでいると、私が手を伸ばすよりも先にマホイップがこれが良いと指さした。
「チョコがいいの?」
 そう尋ねると小さく頷く。珍しい。いつもはバニラか抹茶を選ぶのに。まあいいかとチョコアイスと小さなプラスチック製のスプーンを手に取り、マホイップを小脇に抱えていつものソファへと向かう。
 ソファにマホイップを降ろしてから腰をかけると、いそいそと膝の上に登ってくる。そしてこちらにむけて大きく口を開く、と言っても元から口が小さいのであまり開いていない。自身の飾りにつけている苺すらも一口で食べるのは難しそうだ。
 蓋を開けたばかりでまだ硬いアイスの表面をスプーンで削るようにして掬い、マホイップの口元へと運ぶとぱくりと食べた。何度かゆっくり咀嚼し飲み込むと小さな両手で頬を抑え、身を捩らせる。美味しかったようで何よりだ。さて私も食べようとアイスを救おうとしたのだが、その手を半ば抱き着くような形でマホイップに掴まれてしまう。
「どうしたの」
 その問いかけにただじっとこちらを見上げるだけで何も言わない。ただ、マホイップの目に困惑した自分の姿が映っているのが良く見える。もうひと口食べたかったのかな? 食べ過ぎはあまり良くないけど、これはちょっと高めのカロリー低めのものだから少しくらいは大丈夫だろう。
「もうひと口食べる?」
 しかしマホイップは首を横に振り腕から離れない。一体何がしたいんだ。じっとお互いに見つめ合うこと数十秒、マホイップが動いた。いつのまにか手の上に出していたホイップをべしゃりと食べていたアイスの上に乗せる。それから再びこちらを見上げてにこりと笑みを浮かべた、早く食べるようにと促してくる。
「……ありがとう」
 ホイップと一緒にアイスを口に含むと、チョコの濃厚な甘さと共にミルクの深いコクが広がる。
「美味しい!」
 思わずそういうと、おかわりだとまだホイップが残っているというのに追加で乗せてくる。アイスに対してホイップの量が多すぎるどころか、もはやチョコの色が見えなくなってしまっておりほぼホイップだ。
「わあー」
 これ、低カロリーのアイスの意味なくなってないかな。
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