2020/08/18 23:27

 散歩に行くんだと、真夏の太陽が照りつけるなか出掛けていったジュラルドンが帰ってこない。もしかして迷子になった? だから何度も夕方になったら一緒に行こうと声をかけたのに。
 帽子をかぶり、携帯式の扇風機を持ち完璧な装備で外に出ると、家からわりと近くのところにジュラルドンがいた。正しくは、陽射しが痛いくらいに照りつけてくるなか、子供たちに囲まれて生卵を乗せられている。
「こ、こらー!」
 人間にたいしてこらーなんて初めて言った。ポケモンにしか言ったことない。人間ってとっさのときって普段使わない言葉が出るんだ、そんなことを考えながらも子供たちを追い払うために声を張る。
 突然出てきた大人に、まずいと思ったのか逃げるミミロルのように何処かへ行ってしまった。一人くらいは捕まえたかったが、それよりまずジュラルドンだ。
「ジュラルドン! 大丈夫?」
 まるでフライパンにするように、卵のなかみがジュラルドンの頭の上に乗っている。もしかしていじめられた? 生卵を投げつけられた? そういうときは大声出すか、逃げて欲しい。攻撃しなかったのはえらい。
 しかし、当の本人はあまり気にしていないようで、不器用ながらも頭の上の卵が落ちないように口を開いてバランスをとっている。
「……落としてもいいんだよ」
 食べ物で遊んじゃ行けません、無駄にしてはいけません。たしかにそう言い聞かせて来たけど、この場合は仕方ないと思う。そう言ってもジュラルドンは必死にバランスをとっている。滑りやすい生卵は油断をしたらするりと落ちてしまうだろう。いや、落としなよ。
 この暑い日差しのなか、そんな変な遊びをしている場合じゃないでしょう。ずっと日に照らされ続けていたら、そのうちジュラルドンの体も熱がこもって暑くなってくるだろうしフライパンみたいに……。
「もしかして、目玉焼き焼こうとしてる?」
 返事は無かったが、きっとそうなのだろう。一瞬頷こうとしてバランスを崩してしまい、慌てて卵の位置を戻そうとしていた。
 最初は目的の通り散歩に行こうとしたのだろう。ただ、その途中であの子供たちに捕まった結果、自分自身もどうなるのかが気になってしまった。たぶんそういうことだ。ちらと卵の様子を見ると、じわじわと黄身の部分に火が通り固まってきている。
「……終わったら頭拭こうね」
 普通のフライパンと違って錆びやすい体をしているのだから、気を付けて欲しい。ていうかこんなことに興味持たないで欲しかったな!
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