2020/08/16 22:42

 まるで溶けたアイスのように、シャワーズが溶けている。その様子を見ていると、ちらとこちらを確認してからさらにでろりと溶けていく。あああーあついなーと全身を使ってアピールし、きゅるると高い声で鳴きながら再びこちらに視線を向けた。ぷいと顔ごとシャワーズから目を背けると、ぱしゃりと水をたてる音が聞こえた。たぶんしっぽで水面を叩いたんだろうな。きっと床が水びだしになってる。
 大きめのたらいに冷たい水と一緒にシャワーズをいれ、扇風機の風を送る。今まではそれだけで満足してくれたのだが、今年のうだるような暑さにクーラーを導入したところその快適さを知ってしまったがゆえに、満足してくれなくなった。確かにクーラーは快適だ、部屋全体が涼しくなるから扇風機と違って風を独り占め、なんてことにはならない。私が扇風機をシャワーズに譲って、暑さに耐えなくても済む。
 しかし、しかしだ。扇風機に比べるとどうしても電気代がかかってしまう。もちろん、耐えられないほどに暑いときや、熱中症の予防のために使ったりもする。でも今日は窓を開けていれば風が入って来るし、氷をかじりながら扇風機をまわしていればどうにかなる。シャワーズの誘惑に負けるわけにはいかないのだ。
 じわりと肌に玉のような汗が浮かび、肌を伝って落ちていく不快さ。スマホを握る手のひらにじわりとした湿り気を感じる不快さ。むわっとする暑さを帯びた風が入ってきて髪を乱す不快さ。 
 額にじわじわと浮かんでくる汗を乱暴にぬぐい、シャワーズに視線を向けるとつぶらな瞳でこちらをじっと見つめている。黒目がちな瞳は私の姿をとらえて離さない。ただただじっと、何も言わずにこちらを見つめている。
「クーラー、つけようか」
 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、シャワーズはたいらのなかで立ち上がった。その勢いで水がこぼれたが、まったく気にしていない様子で体をほぐすように伸びをしている。面倒くさがってたらいの下にタオル敷かなかったことを後悔しながら、窓を閉めてクーラ―をいれるとごおお、と音をたてながら冷たい風が出て来る。
 クーラーってすごい。涼しい。どんどん部屋が涼しくなってくる。ちらとシャワーズに視線を向けると、どうだと言わんばかりにふふんと笑みを浮かべていた。ぐぬぬ。悔しくなりながらも何も言い返せないまま座ると、シャワーズがするりと近づいてきて膝の上で眠り始めた。
「わかりやすいやつめ」
 甘えたかったのならクーラーを理由になんてしなければいいのに。でも、片目だけ開けてにやっと笑いながらこちらを見たシャワーズが何を考えているのかはわからなかった。
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