かちゃり。
ドアノブがまわる音が聞こえて、目をあけた。ソファに寝ころがって本を読んでいて、そのまま眠ってしまったのだ。開いたまま腹の上にのせていた文庫本をとじて、体を起こした。玄関から、「ただいま」というヒロトの声。重たいまぶたをこすりながら、「おかえり、ヒロト」と言うと、リビングに入ってきたヒロトは俺を見て笑って、「リュウジ、寝てたの? ……あ、それ俺の本」
ソファのとなりのちいさなテーブルに置いた文庫本を取り上げた。
「読んでたら、寝ちゃった」
ふわあ、と欠伸をして背のびをして窓のほうを見やると、まだ外は明るかった。
「つまんなかった?」
「とってもおもしろいよ。難しいけど」
答えてヒロトを見上げた。
「じゃあそれ貸してあげる。読み終わったら感想聞かせて」
「う……んっ……」
勝手に読んでごめんね、と言おうとしたのに、ヒロトは体をかがめて、唇を重ねてきた。苦しい。
ヒロトの歯が俺の唇にふれて離れて、ヒロトの腕が俺を抱きしめた。
「リュウジ、好き」
ヒロトの口からぽろり、と言葉がこぼれた。声に出すとありきたりな響きになってしまうけれど、ヒロトのこの言葉の奥の、何もかもを溶かしてしまいそうな熱情を、俺は知っている。


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