05

ふいに寒気を感じた。冷房の効かせすぎじゃないだろうか。外はたしかに暑い。残暑の湿気がうざったいほどで、ビルのエレベーターに立って一安心した。けれどカラオケボックスのなかは寒い。
うっすらと水滴をまとわりつかせているグラスを手にとった。氷とグラスがぶつかってからん、とちいさな音がした。
マックスが熱唱しているのはヴィジュアル系のバンドの比較的スローなテンポの曲だ。マックスの裏声はとてもきれいだと思う。
ジンジャーエールを一口飲んで、つぎ半田だよ、とギターソロの合間に言ったマックスにうなずいて予約を入れた。歌ったら寒気はおさまるだろうか。




ちいさなくしゃみをした。
「なに、半田、寒いの」
「んー」平気、とつづけようとするとマックスが立ち上がった。「うわ強になってる。そりゃ寒いわー着ると暑いから弱にするね」
頭をがんがんゆさぶる大音量のカラオケをすり抜けてマックスの声は俺の耳に届く。すとん、とマックスは腰をおろして、お行儀悪く近づいてきたかと思うと、唇にやわらかい感触。なぜキスの熱は心地よいのかなあ、と思っている間にマックスの唇は離れて、代わりに頬につめたい手が添えられた。
「寒いとか言って、火照ってる」
にこっというよりはにやっとマックスは笑った。その一言でますます顔が熱くなった気がする。
「おまえは、手つめたすぎ!」苦しまぎれに指摘してみた。
「指とか、先端が冷えやすい体質なのー。それに手がつめたいのは心が暖かい証拠って言うでしょ」
また唇が触れた。
「おい、こらマックス」形だけ抵抗する。こいつ、いつもより照明絞ったのはこのためか。
「ちゃんとね、半田が恥ずかしくないように暗くしたから」
ぼくってやさしーい、とうそぶいてつぎは舌が入ってきた。
「ふあ、これ何のジュース」
俺から離れて下唇を舐めたマックスだけれど、俺にはまだ答える余裕がない。


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