01

改札前で待ち合わせだ。なにも入っていないかばんは、それでもなぜか重たく感じて、かすかに桜の香りをふくんだ風が俺のほほをなでた。サラリーマンや学ランの高校生にまじってエスカレーターにのった。ポケットに手を入れて、定期券を確かめる。
マックスはもういるだろうか。ピンクと水色の帽子を探したが見当たらない。やっぱ遅刻か、と思ったところで、「半田」と名前を呼ばれた。ローファーやヒール、スニーカーの足音、誰かが電話に怒鳴りつけている声、つぎの電車の案内、意外にも音にあふれている朝の駅で、マックスの声はすっと耳に入ってきた。
「ここだよ、半田」笑いをふくんだマックスの声。ぐるりとまわりを見回した。周辺地図の載っている柱に寄りかかっているマックスは、帽子をかぶっていない。どうりで見つからないわけだ。
「早いな、マックス」
「さすがにね、今日は遅れるわけにはいかないでしょ」
行こうか、とマックスは改札をくぐった。新品のブレザーは肩のところがかたくて居心地が悪い。
「それよりマックス、帽子はどうしたんだよ」ホームに立って、となりのマックスにたずねた。「ん、高校生だからね、学校じゃかぶらないよ」と気の抜けた声が返ってきた。そっかあ、とうなずいて、「クラス、一緒だと良いな」ふと思ってぼそっとつぶやいた。ちょうど、電車がすべりこんできたから、マックスには聞こえなかったかもしれない。おくれて吹いた風に、マックスの前髪がふわっと舞い上がった。
「高校でもよろしくね」よく聞こえなかったけれどたぶんそう言われた。笑ったマックスはいつもどおり、にやにやという擬音が似合っていた。


back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -