※南沢さん高二、倉間高一の設定
※全体的に捏造がひどいので注意








――あ、南沢さん。
今週発売の週刊誌を買って帰ろう、と入ったコンビニの、奥のほうのスイーツコーナーに見知った紫髪がいた。ずらっとならんだ週刊誌を一冊、手にとって南沢さんの背後にしのびよった。ちらっと見えた横顔はずいぶんとまじめだった。
「南沢さん」声帯をふるわせ、のどにひっかかることなく発した声はいつもどおりの自分のそれだった。南沢さんが振り向く、そのしぐさがひどくゆっくりに感じて、「……倉間」南沢さんが俺の名前を口にした。
つぎにつづく言葉を待った。ひさしぶり、とかなんとか言われるなと思っていたら、
「シュークリームとフルーツタルト、どっちが良いと思う」まったくちがった。なので俺はしかたなく、「ひさしぶりじゃないっすか」と言ってから、「俺のいまの気分はフルーツタルトっすね」と付け足した。
「うーんやっぱり? よし、タルトだな」うなずいた南沢さんは、イチゴだのキウイだのブルーベリーだのがのっかった、ドーム型のタルトを二個とりだして、レジに向かった。なんで二個も買うんだ。とりあえず俺もついて行って、となりのレジで会計をすませると、南沢さんはさらに肉まんも買っていた。
「こっからだとお前ん家のほうが近いな」
「……え」
俺に肉まんを一つ手渡して、南沢さんは歩きだしてしまった。日が暮れかけている。南沢さんは真っ黒い学ランを着ている。肩に稲妻のマークはない。一方の俺は、どこにでもあるような紺色のブレザーを着て、ネクタイをゆるめている。ほんとうにひさしぶりだ。制服で会うのははじめてじゃないか。
お互い高校生になったけれど、当たり前にちがう高校で、なかなか会わなくなって何ヵ月も経った。メールはよくしている。いまも携帯をひらけば南沢さんへのメールが編集中で保存してある。
肉まんをかじりながら南沢さんに追いついて、歩調を合わせた。いつのまにか俺の家の前だった。ポケットから鍵をとりだしてドアノブにさしこんでまわし、ドアをあけると、俺よりも先に南沢さんが玄関に入りこんだ。いくら俺の親がいないからって。
「おじゃましまーす」かったるそうに語尾をのばして南沢さんが言った。おくれてローファーを脱いだ俺は階段をかけあがって二階の自室のドアをあけた。あ、南沢さんにスリッパ出してないや。ぺたぺた、と靴下で廊下を歩いてきた南沢さんは、俺の部屋を見わたして、「相変わらず何もねえのな」ため息のようにほう、と息をはいた。「今日でテスト終わったからさ、これ食おうと思ったのに近くで売ってねえんだもん。探してこっちのほうまで来るはめになった」倉間も食おうぜ、とタルトを差しだす南沢さんの襟には、ここらへんの地域では有名な進学校の校章がついていた。
「え、でも」
「俺のおごり。ひさしぶりだし、な」
目を細めて俺を見つめる南沢さんの笑顔は変わってなくてやさしくて、「じゃあお茶、とってきますね」
階段をとんとん、とおりていく自分の足音をききながら、会おうと思えばすぐ会えるくらい近くに住んでいたのだ、と気づいた。なぜもっとはやくに、会おうと思わなかったのか。否、なぜだろう、思いつかなかったのだ。
でも会ってしまえば南沢さんは変わっていなくて、一年以上まえ、南沢さんの卒業式の日に数滴の涙とともに心の奥底に沈めた気もちがじわじわとよみがえってくるのがわかった。愛しい。忘れたわけではなかったけれどこんなにつよくはっきり感じたのはひさしぶりだ。これからは頻繁に会うようになるんだろうな、と予感しながら、ペットボトルとコップをお盆にのせて階段をのぼった。


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