ふっ、とため息のように吐息をついて、参考書を広げた。
ぱっと目に入ってきたのは和歌だった。万葉集、とかっこ書きがしてある。

「あかねさす……」紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

ここは自室、誰もいないのをいいことに、つい声に出してしまっていた。
情熱的な、秘めた恋の歌だといわれているけれど、実のところは行幸を盛り上げるために詠んだもの、という説もある、と授業で聞いた。
つぎは長歌だ。天地の 分かれし時ゆ 神さびて 高く貴き……と、五七の順につづいていく。

なんのために古文や歴史を勉強するのか、とも思うけれど、その前にまず、想像できないのだ。今俺が他人とかかわっているように、話して笑ってときにはけんかして、ものを食べ、月を眺めたり筆をもって書をしたためたり、そんな日々が積み重なって今がある、というのが信じられない。
積み上がって俺たちの足元をつくる時の一頁一頁の存在が、そのなかみの生活が想像できねえ、と笑って、携帯を手でもてあそんだ。倉間は元気かなあ。


出典 万葉集巻一、巻三


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