・大学生くらい
・なんかヒロトが変人ぽい


ヒロトは部屋に何も置かない。誕生日やバレンタインなどにもらったものは、すべて捨ててしまう。高級ブランドのネクタイやふわふわのハンカチ、宝石のついたピンに有名陶器メーカーのマグカップ、なんでも、包みを開けず、リボンすらほどかずにゴミ袋につっこみ、袋の口をきつくしばってマンションのゴミ置き場に置いてきてしまうのだ。もったいないにもほどがある。
いちど「俺が使えるものはもらいたい」と言ってみたら、ヒロトはとても不機嫌な顔になって、低い声にいらだちをにじませて「リュウジが使うなんてとんでもない。いい、こんなばかみたいなものたちは捨ててしまうべきなんだ」と吐き捨て、それから数日はずっとふてくされた子どものような顔をして、もともとすくない口数がさらに減ってしまったのだった。

それから、ヒロトはよく女を連れてくる。それも毎回ちがう女だ。
そういえばいつだったか、背の低いOL風の女だった気がする、が、にこにこしながら、甘えた声で「プレゼント」と香水を差し出したことがあった。そのとき俺はたまたまヒロトと女のいるリビングを通過して、コンビニに行こうとしていたのだが、ちいさなガラスびんを受けとったヒロトは、感情を消し去った能面のような顔になって、ひどく冷たい声で、「リュウジ、外に行くならこれ、ゴミ置き場まだ開いてる時間だから捨ててきて」とこともなげに言い放ったのである。
俺はもう慣れっこになっていたから、「わかった」と言ってヒロトが投げてよこしたびんをキャッチした。午後七時五十分だった。マンションのゴミ置き場は八時にしまる。

ヒロトと俺の淡々とした態度とちがって、その女はすぐにわめきだした。「捨てるってどういうこと?」とか「そのひとは誰なの?」とか「わたしあなたの彼女だよね?」とか、しまいには「捨てるだなんてわたしのこと好きじゃないの?」と泣きだしてしまった。
あーあ、と俺はため息をついた。ヒロトもヒロトで、「俺はものをもらわない主義なんだ」とか何とか言えば良かったのに、どんな感情も読み取ることのできない顔で、ただ化粧の崩れはじめた女を見つめていただけだった。女はひととおりの言葉をヒロトにぶつけて、顔をあげると、きっ、と俺をにらみつけた。

「だいたいそのひとはいったい誰なの!?」と、ヒステリックに叫ばれた言葉に、ヒロトはやっと口をひらいて、かと思えばなんと、「俺の大切な人」とはっきり言い切ったのであった。うわ、いきなりストレートだな、と俺は顔に熱があつまるのを感じていた。
ヒロトが俺を見つめる瞳には明るい光が宿っているような気がした。

そんな俺たちのようすに、女はいよいよぼろぼろと涙をこぼして、「ヒロトはわたしを愛してるんじゃないの?」と、聞いてるこっちが悲しくなるような声をしぼりだした。もうヒロトは何も言わなかった。
俺はその場にいるのがいやになって、そそくさと部屋を出て、スニーカーをはいて、香水びんを捨てに階段をおりていった。ゴミ置き場の重たいドアを押して、いつもすえた臭いのするなかに入って、適当なビニール袋にむりやりびんを押しこんで、ふたたび階段に足をかけたところで、泣きながら女が駆けおりてきて、俺のよこを走りぬけた。

部屋にもどれば、ヒロトはにこにこしながら俺を出迎えて、「ごめんね」と言った。
「何て言ったの」とたずねると、「出ていけば、って言ったらほんとに出てっちゃった」と笑った。
ヒロトがすりよってきて、しばらく二人でくっついていた。

その晩、ヒロトは俺を抱いた。

そうそう、ヒロトは俺が買ったものだけは捨てない。それどころか俺にだけプレゼントをくれるのだ。


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