母のおさがりの白い襟つきブラウスに、ベージュのショートパンツをはく。ループタイをつけて、ブラウンのニーハイソックスを太ももにかぶせて、クローゼットをあけた。買ってもらったばかりのもこもこしたジャケットを羽織ってマフラーをまき、ベレー帽をかぶった。鏡に全身を映す。いつもおさげにしている髪は、おろしてゆるく巻いてみた。うすくリップクリームを塗って、かばんのポケットに入れて、玄関に向かった。
「行ってきます」
と声をかけると、「気をつけるのよ」と気の抜けた母の声が聞こえた。

今日は休日、久しぶりにサッカー部も完全オフ。シン様に会えないのは残念だけれど、夏ごろに隣町をあるいて見つけた、お洒落なカフェまでお散歩することを思いついて、いそいで準備をした。一人でいるのもわりと好きだ。前から読みたかった文庫本をもって行くことにした。もちろんカメラも忘れない。

足どり軽く、カフェの前に到着した。うん、やっぱりすてき。ハーブのちいさな植木鉢が並んでいる。カメラを取り出して写真におさめた。ひとつひとつのハーブについたネームプレートのフォントもかわいい。
よし、入ろう。目の高さにあるガラス窓から、中の様子がちらりと見えた。ドアを押すとからん、とベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
若い女性の店員さんにほほ笑まれて奥に歩いていく。
……と、いちばん奥まった二人がけの席に、見慣れたウェーブの頭が見えた。ような気がした。いや、そんなまさかのまさか。彼は目を落としていた本から顔をあげて、カップに口をつけた。あ、やっぱりシン様だ……!
休日に会えるなんて幸運すぎる、と彼をじっと見ていると、なんと目が合った。シン様の瞳が大きく開かれた。びっくりしてる。カップを落としそうになって、あわててソーサーに戻したシン様は今日もすてき。写真撮りたいなあ。
わたしは立ち止まっていたのだろう、前を行く店員さんが振り返った。黒いエプロンのシルエットはとてもきれいで、たぶん良いやつなんだろうなあ、と思っていると、
「待ち合わせ、ですね!」
ととんでもないことを言われた。
え、と首をかしげると、店員さんは、わたしを凝視しているシン様をちらっと見て、ほほ笑んだ。
……ち、がう。
はやく否定しなきゃ、と思うのに言葉がうまく出てこなかった。何も言わないわたしを見て、「ご案内いたします」と、店員さんはシン様のテーブルに近づいていってしまう。
ああ、どうしよう。
でもシン様笑ってる……うわあどうしようどうしよう……!
わたしがその場から動けずにいると、シン様は黒いエプロンの店員さんにうなずいてみせて、わたしを手招きした。


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