神童のため、と言うよりは自分のためだったような気さえしてくる。もう、何年も前のことだ。あまり良く憶えていない。
幼き日の俺はきっと、「神童を守る」とか「ずっと一緒にいる」とか、そんな感じの気恥ずかしい言葉を口にしていただろう。
鎖骨の下あたりまでのびた髪を指にくるくる巻きつけた。
髪をのばしている理由ももう忘れてしまった。けれど切ってしまったら何かが欠けてしまいそうで切らずにいる。このごろはますます女にまちがえられるようになった。

神童のとなりにいる、と決めたのは俺自身のためだったのだろう。俺は、神童がすこしでも生きやすくなるように手助けをして、幼なじみという、親友とも家族とも恋人ともすこしずつ異なっているこのポジションから、神童をこっそり見守ることに、自分の生きる理由、のようなものを見いだしたのだろう。
もしかしたら、髪の長い理由も、そんなところにあるのかもしれないと考えて、とても阿呆くさくなってため息をついた。

ベッドにたおれこむ。明日も明後日もそのつぎも毎日練習だ。そろそろ寝なくては。携帯の電源切ったかな、と手をのばして携帯電話をつかみとると、タイミングが良いのか悪いのか、着信音が部屋に鳴り響いた。

「神童……?」ディスプレイに表示されたのはめずらしい名前。
通話ボタンをおして携帯を耳にあてる。ちらっと確認した時刻は、まだ二十二時をすこし過ぎたところだった。


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