「チョコレートって宇宙だよな」
……出た。神童の電波な発言。
「なんでそう思うの」
訊きかえしてやると、神童はふにゃりと笑って、お茶菓子として出されている箱詰めのチョコレートを指差した。
「金箔がきらきらしてて星みたいだし、
あ、でも、一粒一粒がお星さま、って気がしないか」
言いながら、神童はトリュフをひとつ、つまんで口に放りこんだ。
「おれ、お酒入ってるやつのほうが好きだなあ」
もぐもぐ咀嚼しながらそんなことをほざく神童に、俺はめいっぱい顔をしかめてやる。
「酒が入ったお菓子なんて食ったことねえよ」
「え、そうなのか」
神童は心底驚いたように目をまんまるくしている。
なんだその反応、ちょっとむかつく。
「おまえみたいなお坊ちゃんとはちがうの」
あまり卑屈にならないように言ってみた。
が、神童は聞いているのかいないのか、にこにこ笑いながら、ピンクの銀紙に包まれたチョコレートを俺に差し出していた。
「これ、たぶんお酒入ってるやつ」
「たぶんってなんだよ」
「小さいときに、拓人はまだ食べちゃだめって言われたやつだと思う」
神童はまじめな顔をしてピンクの銀紙をはがし、俺の口もとにチョコレートを持ってきた。
「……何だよ」
俺に食えと言っているのか。
「剣城、あーん」
試合中のような、その真剣な表情に負けて、俺は口をあけた。
放りこまれたチョコレートに歯をたてると、お酒の匂いがつん、と鼻をついた。
甘い。けど苦い。
あまりおいしいものじゃねえ、と思いながら噛み砕いていく。
ソファがみしり、と小さくきしんだ。
気づいたら、神童に唇を重ねられていた。
舌が歯のあいだから入ってくる。
「……っ、しん、どっ……」
完全に不意打ちだった。
ほんの一瞬のうちにすり寄られて、おまけに、
がっちり首に腕をまわされている状態が気に食わなくて、どうにか仕返ししてやろうと身体に力を入れたとき、おもむろに神童が唇を離した。
「……っ」
肩で息をする俺と、うれしそうに顔をゆるませる神童。
「うん、おいしい」
「……ぜんぜん」
幸せそうな神童をにらみつけてやる。
それはそれはご満悦な神童のほうがおいしそうなものに思えて、俺は、さっきの仕返しとばかりに神童を押し倒した。


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