風丸くんの片目を隠す重たい前髪を、右手ですくって持ち上げた。
「……なに」
風丸くんの声は乾いていた。「なんでもないよ」と答えて、そっと前髪から手を離し、今度はぎゅっと風丸くんを抱きしめる。
「ヒロト」風丸くんはぼくの肩に頭を寄せた。風丸くんの髪はしっとりしていて、蛍光灯の光を受けてかがやいている。
腕に力をこめる。風丸くんがこうやってここにいることの幸せを、どうやって伝えたら良いのかわからない。
「う……ヒロト、きつい」と言われて、腕をゆるめると、ぼくを見上げている風丸くんと目が合った。その瞬間、脳がばちっと火花を散らして、体の奥のほうがどくんと波打って心臓がきゅん、とちぢんだ。
風丸くんがぼくの首に腕をまわした。


(0901)



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