一人しか映らない
※中学時代
※モブ女子がいます
「八田君、あの、伏見君を紹介して欲しいんだけど」 またか、と八田美咲は相手にわからない様ため息をつく。 目の前の女子生徒は顔を真っ赤にして俯いているため八田の表情が見えていない。 が返事をしようとすれば、聞きなれた声が廊下からした。 「美咲ー、帰ろ。……そこの女と何してんの?」 伏見だ。 噂をすればなんとやらは本当らしい。 「こいつ、お前に用があるみたいだぜ」 丁度いい、と八田は女子生徒の背を押し猿比古の方に向かわせた。 「俺はあんたに用ないんだけど。…どうしてもって言うなら早くして」 教室まで入って来た伏見は、不機嫌な声色を隠す素振りもなくそう言った。 女子生徒は怯んだ様に見えたが、小さい声で、 「す、好きです」 「…ふーん」 表情一つ変えず短く答え、伏見は八田の鞄を持ち上げて、自分の鞄を持つ手の逆、左手にかけて踵を返し歩きだす。 「美咲、帰るぞ」 八田は慌てて彼の後を追うため立ち上がる。 「待って!」 呼び止めた女子生徒は涙を堪えた様に唇を噛み、手をぐっと握って八田を見上げた。 「わたし、フラれたのかな?」 八田が申し訳なさそうに頷くと、彼女の目から涙が溢れた。 見えないふりをして廊下を走る。 「待てよ、猿」
「あれー美咲ぃ、もしかして怒ってる?」 帰り道、少し先を歩く伏見が振り返っておどけた風に問いかける。 「別に」 「不機嫌そうな顔、してんじゃん」 「そんなことない」 「俺が女に優しくないから怒ってんの?」 伏見が女性に言い寄られるのはいつものことで、それに対する彼の態度が冷たいこともいつも通りだ。 そこはもう気にしていない。 というよりは、気にしたら負けというレベルだ。 「そんなんじゃねーよ」 「あーもしかして、モテる俺への僻みか?」 「そーでもねぇ、てか怒ってない」 自分がモテるなどと当然の様に言う伏見に呆れつつも、八田はそれが事実なのを嫌と言うほど知っている。 伏見は性格にこそ多少の問題があるが、それを抜いたら整った顔を持ちスタイルもいいのでモテないわけがない。 「あっそ」 僻みじゃないのが伝わった様で、伏見はつまらなそうに言い捨てた。 道に転がる石を蹴りつつさっきの出来事を思い出す。 怒ってねぇ、怒ってねぇよ。 ただ、少し不安になったんだ。 いつかお前が女と一緒んなって、俺から離れて行く気がして。 「いっ!!」 急に視界が揺らいだ。 考え事に夢中で、自分の蹴っていた石に躓いたのだ。 転ぶー! 歯を食い縛り来るであろう衝撃に備えたが、いつまでたってもそれはなかった。 「どんくさいな。これだから童貞は」 ぎゅっと閉じていた目を開ければ、とても近い位地に伏見の顔が。 助けられたのだ。 転びそうになっていたことなど忘れ、一瞬、キスできそうだ、なんて思ってしまった。 「美咲ー、顔真っ赤。ヘンなコト考えちゃったー?」 耳もとで囁かれているせいで心臓がうるさい。 「かっ、考えてねぇよ!!馬鹿言うな」 顔を林檎の様に赤く染めた八田の発言には説得力など欠片もなく、伏見はにやっと笑う。 「わーらーうーなっ!!」 怒って、伏見を突飛ばし走り出す。 「いってぇ」 伏見は鞄を持ち直すと八田を追いかけ始めた。 「ホント、美咲は可愛いよ」
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