小説 | ナノ



ひとりじめ

※中学時代

※[ラ/ブ/ミ/ー/ギ/ミ/ー]を猿美変換。原曲知らなくても大丈夫だと思います



「暗示?」
コテンと首を傾げて八田は伏見を見上げた。
放課後の教室には夕日が射し込み、風がカーテンを揺らす。
今の教室は二人だけの世界だった。
そんな中、伏見は、これから俺が美咲に暗示をかける、そう言ったのだ。
「そ、暗示。いいー?」
「いいけど」
そんな必要がどこにあるかわからなかったが、渋々言葉と共に頷いた。
暗示とはどんなものなんだろう?
もしもその暗示が自分にとって悪い物でも、伏見にかけられるならいい、そんな風に思えた。
「じゃ、軽く目ぇ閉じて。俺が合図するまで」
言われた通りに目を閉じると、真っ暗闇に包まれた。
前方に感じる伏見の気配が妙に八田を安心させるのが不思議だ。
「余計なモノは見えなくていい」
何も考えるなと、そういう意味だろうか。
心を無にしようと思考を追いやるが、そんな簡単なものではなくどうしても思考が入ってくる。
「何にも考えない状態って難しいぜ」
うーんと頭を抱える八田の肩に、伏見はポンと手をおく。
「何にも考えるなとは言ってないだろ。余計なことを考えずに…そうだな、俺のこととか考えてろ」
目を瞑っている八田からは伏見の表情は見えないが、きっと笑っているだろうと思った。
「猿、のこと?」
「そー」
返事をしたきり暫く伏見は黙り込んでいたが、肩に乗せられた手はそのままだった。
猿比古は友達で、大切で、それから、それから…
「やーめた」
考えてた最中で伏見が間延びした声をあげた。
「へ?」
視界は真っ暗でわからないけれど、気配が近づくのが伝わってくる。
「おい、猿比古?」
驚いてまだいいと言われてないのに目を開けると、目の前には反対に閉じられた伏見の瞼が。
あっと思ったときにはもう遅くて、反射的にまた目を閉じる。
唇に柔らかい感触があたったのがわかり、顔に熱が集まってきた。
触れあったのはたった一秒くらいなのに、とても長かったように感じる。
やっと離れたのを確認して目を開けると、伏見は八田に背を向けて二歩進んで黒板の前に立つ。
そこで振り返った。
「何すんだよ!」
八田が照れているのか、怒っているのかどちらとも言えぬ様子で言えば、伏見は曖昧に笑う。
「だって、美咲、気づかないから」
それから、机に手をかけて愛しげに表情を変えた。
「いつも、見てるのに」
目が合う。
綺麗だ、なんて思ってしまった。
伏見は男なのに、でも、それでも綺麗だと思った。
すぐに目を反らした彼が何を言ったかは聞こえなかった。
「愛してる」
小声だが、確かに何か大切なことを言っていた気がして、
「今なんつったんだよ、猿…」
伏見は八田に聞こえてなかったのを知って、目を丸くした後、一度瞬きをする。
「教えない」
口元に人差し指を寄せて、やっぱり曖昧に笑うだけだった。
「美咲なんて穴あいちゃえ」