小説 | ナノ



one day

※全員成人済


オーダーメイドの普通より数倍音が出るインターホンが鳴った。何かに集中すると小さな音なんて耳に入らなくなる俺に、これをプレゼントしたのは聖川だった。インターホンをオーダーメイドだぜ。面白いだろ?
まぁとにかく、俺ん家のインターホンはかなり五月蝿い。只今の時刻は午後6時。今日1日オフな俺は仮眠から轟音によって起こされ、まだまだ重たい瞼を擦りつつ、ベッドから降りて玄関までのそのそと歩いた。相手を確認する必要はないだろう。約束した彼らに違いないはずだから。

「こんばんはー!あれ、もしかして寝てた?」

「こんばんは、イッキ。寝てたけど、どうして?」

「顔に寝てましたって書いてあるよ。それにね、ココ」

イッキが自分の頭の一番上をぽんっと叩いて俺を見上げる。

「これは参ったな」

自分の髪を確認する様に撫でれば、寝癖がついているのがはっきりとわかっ苦笑する。

「レンでも寝癖つくんだ」

「そんなに不思議そうにしないでくれよ。俺だって人間なんだぜ」

「そうだよね!ははっ」

「そうだよ。それよりイッチーはまだかい?」

今日は俺の家にイッキとイッチーが来て、最近人気の高い日本酒を呑みながら他愛もない話をする予定だった。日本酒をチョイスしたのは俺で、ワインを苦手とするイッチーのためだ。なのに、イッキの隣に彼の姿がない。

「トキヤはもうすぐ来るよ」

「じゃあ、部屋で待ってようか」

「うん、お邪魔しまーす」

「どうぞ」

イッキは靴を脱ぐと、きちんと揃えてから部屋へ入っていく。学園時代に寮の俺と聖川の部屋へ来た時は脱いだら脱ぎっぱなしだったというのに。これはイッチーの教育の賜物かな。こういう細かいけど大切なことを彼は凄く大事にしている。

「レンの部屋、綺麗じゃん」

「そうかい?聖川が五月蝿いからね」

「マサが?レンも俺と似たようなものだね。俺の場合トキヤが綺麗好きだから、俺の部屋すっげぇ綺麗なんだ!こないだ翔がビックリしてた」

「そういえばおチビは俺の部屋でもビックリして目を丸くしてたよ」

「翔も失礼だよね。俺達だって片付けくらいできるのに」

「全く、イッキの言う通りだね」

二人で少し笑ってからソファーに腰掛けると、時計はイッキの来訪から十分が経過していた。

「イッチーが遅れるなんて珍しい。確か今日はイッキも出演してるドラマの撮影があったんだっけ?」

「うん。俺とトキヤは撮影が終わったら二人でここにくる予定だったんだけど、最後のトキヤのシーンが何度も取り直しになっちゃって。トキヤが、音也は先に行ってくださいって」

「共演者のリテイクにイッチーは付き合ってるということかな?」

イッキが困った様に頬をかいて眉を下げた。それじゃあ、まさか…。

「オッケーがでないの、トキヤの演技なんだ」

「イッチーが?どうして…」

イッチーは同期生の中で、恐らく一番の演技力を持っている。俺は結構ドラマや舞台、映画の撮影を共にしたけれど、彼の演技が褒められるばかりでミスは一度としてなかった。

「トキヤは探偵役でしょ。今日の撮影の最後、推理を、珈琲の入ったマグカップを持って足を組みながら話すシーンで失敗しちゃったんだ」

「珈琲を溢したとか?」

「違うよ。トキヤ、足が組めなかったんだ」

「足を負傷でもして?」

「ううん、違うんだ。今まで足を組んだことなかったから、組んだ姿勢をどうしてもキープできなかったみたいでさ」

「組んだことがない、だって?」

「うん、意外でしょ。でもね、理由聞いたらトキヤらしかったよ。関節を痛めたくないので、って」

「確かにイッチーらしい」

「反応がなかったので勝手にあがらせていただきましたよ。……私らしいとは心外ですね」

イッキと同時に振り向くと、あからさまな仏頂面で腕組みをしたイッチーがたっていた。

「と、トキヤ!!撮影は終わったの?」

「ええ」

「足は組めたのかい?」

「当然です。私をだれだと」

「一ノ瀬トキヤさまです。ははーっ」

イッキが声をあげて、勢いよく頭をさげた。イッチー怒るかな、これは。ふざけないでくださいって。

「いいでしょう。よくわかっていますね、音也。顔をあげなさい」

「は……ははっ、ふふふ…はっ」

「「レン?」」

二人は同じ顔で同じように俺を呼ぶ。本当におかしい。
イッチーも変わったね。前だったら冗談は全く通じなかったんだから。

「なんでもないよ。それより、イッチーに足を組むの、披露してもらおう」

俺がおどけて言うと、イッチーは自信満々に椅子に腰掛けようとしている。その後ろには興味津々にイッチーを見つめるイッキ。
二人を見ていると退屈しないね。