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存在価値

神器は神の道具だ。普段こそ人の形をとり神についているが、本来は道具に変化できる死霊である。
神器が何の道具の形をとるかは死霊の俺達と神の組み合わせで変わる。例えば、尊さんの神器としての俺は盾だったが、礼司さんの神器としての俺は懐剣だ。

武神たる礼司さんは、現世を生きる人間を守るべく、妖達が妙なことを起こさないか常に目を光らせていた。それが礼司さんとその神器である俺達の仕事とも言えるだろう。

「猿比古、近々目をつけていた妖の集団が動きそうなんです」
礼司さんは敵がやらかす前だというのにのんびりとした口調でそう言った。
「被害が出る前に潰しますよね?」
「ええ。では、早速明日始末しましょう。面倒なことを先延ばしにするのが良い案とは言えませんから」
「了解です。それで今回のメンバーはどうします?」
礼司さんの神器は俺を含め百人に近い程いる。そのため、全員ではなく戦闘に役立つ者を毎回厳選して従えて行くのだ。
「私と猿比古。氷杜君と酉次郎君と劉芳君の五人で十分です」
「わかり、ました」
「おや、不満ですか?」
俺の返事の歯切れが悪いことを気にとめたのか、彼に顔を除きこまれる。
「不満はないですけど」
「そうですか。何かあれば言ってください」
そう言われても言葉に出せなくて苦しいかった。
確かに不満はない。不満じゃなくて、あるのは一つの疑問だ。どうして短刀にすぎない俺なんかを毎回連れて歩くのだろうか。相手にかなり近づかないと使えない、役立たずな俺を。
礼司さんは毎回違う神器を連れているのだと氷杜さんは言った。なのに俺が神器になってからは、必ず俺を連れ歩く。いざというときに、俺じゃ彼を守ることができないかもしれないのに。そんな自分が情けなくて惨めだ。