小説 | ナノ



そうして俺は、

「単刀直入に言いましょう。私の神器になって下さい」
冬の寒い夜だった。目の前の男は降り続く雪を気にした様子は無く、ただ真っ直ぐな視線を俺に向けた。
「嫌だって言ったら?」
「困りますね」
おどける彼の口元には笑みが浮かんだ。
これっぽっちも困ってねぇだろ。口には出さないが、変わりに睨み付ける。
「君が嫌だと言っても、私は君が欲しいです」
「は?…変な人だ」
俺が欲しい、なんて。
彼は俺の言葉を拾って、くすりと笑う。
「私からすれば、君も相当の変わり者ですよ。益々欲しくなりました」
「じゃあ、どうします?」
「奪いましょうか」
再び視線が交わった。彼の吸い込まれそうな瞳は苦手だと思った。
「君に名前を与える。我が名は礼司」
あぁ、コイツの神器になるんだ。彼の声をぼんやりと耳に入れながら目を閉じる。
「諱を握りてここに留めん。仮名を持って我が僕とす。名は訓いて器は音に、我が命にて神器となさん。名は猿(さる)。器は猿(えん)」

この時が彼との出逢いであり、俺が"猿比古"になった出来事だった。

そしてこれは、俺が同時に二人の神の神器となったこと、即ち"野良"になったことを意味する。