小説 | ナノ



チョイス・フェイト

(サイド:現在)

吠舞羅に入らないと選択した俺は高校に進学して、退屈な日々を過ごしていた。朝がくれば起きて学校へ行き、帰ってくれば課題をすませて寝るだけの生活。美咲と出会う前に戻った様に色の無い毎日だった。ときどき、美咲がいつかゲーセンで手に入れたウサギの縫いぐるみに愚痴を溢すも、当然ながら応えてはくれない。つまらなくて、つまらなくて、吐き気がしそうなくらいだったが、死ぬ気はさらさらなかった。この世界には、美咲がいる。俺が生きるには十分な理由だ。
高校一年が終わりかけた頃、俺の世界はまた、微かに色を取り戻す。それは、深い、綺麗な青だった。青の王、宗像礼司に出会ったのだ。彼との出会いも美咲との出会いとは違う意味で衝撃は強かった。彼を目にした瞬間身体に流れこむ美しい青。妙に心が静かになり、世界に彼と二人だけなのではと錯覚しそうになる。
俺は結局、セプター4に入った。セプター4に入ったのは、宗像という人間に少しの興味があったのとは他に一つ理由がある。セプター4はその性質上、美咲の所属する吠舞羅とは関わりが深い。美咲を一定距離から見ていられる立場が欲しかったからだ。それから、室長、副長、隊員達というたくさんの人に出会った。そして美咲以外と関わることを知って、俺は独りぼっちじゃなくなった。
美咲の世界は広がって、その広がった世界で見つけた尊さんが美咲の一番だ。俺の世界は、美咲が出ていって独りの狭い世界になって、ずっと変わらないつもりでいたけれど、いつの間にか広がってた。でも、俺の一番は変わらず美咲なんだ。今も昔も、きっとこれからも変わらない。


19歳になった。あの時の未来の俺と同じ歳だと思い出される。そして、今、目の前には美咲がいて真っ直ぐに俺を見ていた。
「サル、俺が嫌いなのかよ」
美咲がポツリとそういった。俺が吠舞羅に入らずセプター4を選んだから、そんなことを言うのだろう。美咲は子供っぽいなぁ。嫌いってさ、俺が美咲を嫌うはずない。嫌えやしないのに。嫌いになった方が、お互いに幸せかもしれないと思ったこともあった。けど、嫌いになろうとしたってなれるものじゃない。
「好きだよ」
それは恋愛感情かもしれないし、家族への感情と似たものかもしれない。或いは単なる歪んでしまった友人への感情かもしれない。どれに当てはまるのかなんてわからなかったし、わからなくていいと思った。ただ俺が美咲に抱いたのは絶対的な好意であると知っているから。
未来の俺と今の俺。俺達はきっと感情を溜め込みすぎた。自分を閉じ込めすぎた。相手に伝えることで初めて、美咲と向かい合うスタートラインに立てた様に思えた。