小説 | ナノ



ネジが不足している模様です

「みんな知ってるか?」
ニヤけた顔でそう言った日高の周りは、特務隊の面々に囲まれていた。彼らは日高に、早く言う様促している。
「焦るな、焦るな。…俺はこの事実を知った時、超驚いた。だが、確かにそうかもと思った」
一同がゴクリと生唾を飲んだ。
「伏見さんはな、宗像室長の子供だったんだよ」
セプター4に絶叫めいた叫びが響き渡った。

「日高、それは本当?」
道明寺が聞く。秋山も気になる様で、道明寺の隣で日高をうかがっていた。
「俺昨日珍しく、室長に直接確認して貰う書類があって部屋まで行ったら、偶然伏見さんいて廊下まで声聞こえたんだ。伏見さん、クソ親父とか、お父さんとか言ってたぞ」
こりゃ本当だろ、と面白そうに笑う日高を前に二人は顔を見合わせた。昨日確かに宗像は伏見を娘と発言したが、伏見の様子から冗談だと思っていた。でもそれを日高は本当という。
「室長、伏見さんに甘いところがあると思っていたけど…」
「もしかして子供だからだった、とか…」
秋山と道明寺も結局、親子だったのかと思いこんだ。

「伏見さんって19歳だったよな」
今までパソコンに向かっていた榎本が顔を上げて言った。
「違うだろ。16歳だよ」
日高がドヤ顔で反論する。
「そうだったっけ。…メガネ外すと結構幼い顔してたから、そう、かも」
榎本は一人で頷いている。道明寺は、伏見さんがメガネとったとこが見たい、と手を合わせていた。隣の秋山は冷めた目でそれを見ている。
「室長が親って…室長は何歳なんだ?」
日高がそういえばと、首を傾げた。
「若い顔してるけど、伏見さんが16ってことは、少なくとも30はいってるよな」
「いやいや、室長が中学生くらいで子供作ったかもしれないぜ」
「日高、流石にそれはない」
秋山は先程より冷めた目線を日高へと向けた。
「じゃあ、とりあえず35歳ってことで」
道明寺の言葉にみんなが頷く。隊員達の中で、宗像は35歳ということになった。

「じゃあ何で苗字が違うのかしら?」
急に聞こえた女性の声に驚いて隊員達が一斉に肩を揺らした。いつの間にか立っていたのは、セプター4ナンバー2、副長の淡島世理だった。
「「「副長!」」」
「あら、驚かせてしまったみたいね。最初からいたわよ」
淡島は非番だったはずだが、何故か私服姿でそこにいた。呼び出されたか、忘れ物でもしたのかそんな所だろう。普段の隊員達なら、淡島の貴重な私服に歓喜しそうだけれど、彼らは既に苗字の違いについて考え出しているようだった。
「何かしらの事情で、母方に引き取られたんですかね?」
榎本の言葉に淡島が頷く。
「そうかもしれないわ。室長も伏見君も苦労していたのね」
二人に感情移入している様で、彼女の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


宗像と伏見は親子。宗像は35歳で伏見は16歳。何らかの事情で伏見は母親に育てられた。
特務隊がそう思い込んだことを知る訳もなく、伏見は廊下を早足で歩いていた。角を曲がり部屋に入ろうとすれば、伏見さん伏見さんと自分の名が聞こえる。またくだらねぇ噂話かと、伏見は眉をしかめたが、黙って入室する。
「伏見君…」
「「「伏見さん…」」」
一気に伏見に視線が集まる。それを認識して不機嫌そうな顔つきになった。
「なんすか?…副長まで……」
同情する様な視線を向けられ、何とも言えない気持ちになる。そんな伏見を何の前触れもなく、淡島は抱き締めた。
「ちょ…っと、やめて下さ、いよ、苦しっ……」
「あなたもたいへんだったのね」
「へ?……離して、くださ、ぃぃ」
何とか腕から脱出した伏見は、乱れた服を整えた。
「意味がわからないんですが…」
「今ね、あなたの話してのだけど……」


淡島から今まで特務隊で繰り広げられていた茶番を知り、伏見はショート寸前だった。
「じゃあ俺は、室長の子供で、辛い事情で母親だけに育てられた16のガキだっていうんですね」
一斉に頷く一同を見て頭を抱えて舌打ちをした。
「まず俺は室長と血縁じゃないんで、そんな家庭事情はありません。……副長は嘘でしょみたいな顔しないで、他の奴は黙れ。次に今、19です。…ついでに室長の歳は覚えてないけど、大体あってんじゃないすか。あー、34だったか……」
嘘だと喚く隊員と淡島にうんざり顔で背を向けると、目の前のドアから気配を感じた。
「誰だよ」
伏見が勢いよくドアを開けると、嫌な笑みをたたえた上司がそこにいた。
「室長」
宗像はすぅぅと息を吸い込み、今まで聞いたことのないくらいの大声で言った。
「私はまだまだ若い24歳で、伏見君のお父さんです」
それを聞いても唯一他の人たちとは違い、固まらなかった伏見は、相手が上司だというのを一瞬忘れたのか、宗像の頬に平手打ちを叩き込む。
「まだ言うか」



翌日道明寺が出勤すると、先に来ていた日高におはようと声をかけられた。
「おはよう。……お前、その顔どうしたんだ?」
日高の顔は腫れあがっていて、見ていて痛々しい。
「伏見さんにやられたんだよ」
「伏見さん?」
「てめぇ、日高ぁ。今回の騒ぎはお前が原因らしいじゃねぇか。それに、前には俺のこと女装野郎呼ばわりだもんなー、って怒られた」
「そっか。……どうでもいいけど、物真似のレベルたけぇ」
関心しかけた道明寺に日高が、それよりさと口角を上げた。
「室長の顔見たか?」
「今日はまだ」
「…俺より腫れてるんだぜ」
そう言って自分の頬を指さす。伏見の平手打ちは凄いらしい。