ロックオンは雨に打たれて凍えていた子猫を拾った。ただなんとなく、自分と同じように雨にうたれて濡れているのが可哀相だったから。腕の中で小さく鳴く黒猫の瞳はひどく澄んだ赤い色をしていた。
「お前も寒いだろ?こんな雨の中じゃ」
「みぃ」
濡れた体をタオルで拭き取ってやると気持ち良さげに目を細める。自分の掌にすっぽりと収まってしまう程小さな頭を撫でてやると喉をゴロゴロと鳴らす。疑う心を持っていない無垢な子猫にロックオンは思わず頬を緩ませた。いつの間にやら眠りに就いた黒猫を見てロックオンもベッドに潜り込む。新しい同居人が出来たかも知れない。ロックオンも眠りに就いた。と、ここまでが昨日の下り。朝、目を覚ましたロックオンは驚愕することになる。
「!?!?」
黒猫が居た筈のソファの上に女、いや、少女がいるのだ。黒髪の痩躯の少女。足を曲げ、体を丸めて小さく寝息を立てている。
「な、…誰だ?」
「ん、…ぅ」
「!」
身じろいだ少女はぱちりと目を開けた。赤い瞳とロックオンの瞳がばっちり合った。少女は勢いよく起き上がってロックオンに近づく。その姿にロックオンは狼狽した。
「ちょ、ちょっと待て!お前さん、はだか……!!」
制止の声も虚しく、少女はずんずんと近づき、ベッドに上がって来てロックオンの膝の上に跨る様に鎮座した。
「お、おい…!」
「昨日は助かった。礼を言う」
「…はっ?昨日?」
少女を助けた覚えはなかった。そもそも人の家にあがりこんで何のつもりかというロックオンの疑問が口から出ることはなかった。何故なら。
「……耳…」
黒髪自体が癖っ毛だった所為もあって今まで気が付かなかったが、よく見てみれば少女の頭からは耳が生えている。背後で揺らめいているのは尻尾。耳に尻尾とくれば、如何に非日常的な状況下であってもこの少女が昨日自分が保護した子猫だと結論が出た。
「お前さん、名前は?」
自分のしたことは自分で責任を取らなければ。腹を括ったロックオンはこの黒猫を新しい同居人にしようと勝手に決めた。
「刹那」
赤い瞳がロックオンを見つめる。どことなく愛おしさが感じられて刹那の頭をそっと撫でてやった。
「俺はロックオンだ。よろしくな刹那」
撫でられて心地良いのか昨晩同様、目を細める刹那。尻尾がシーツの上を滑るように動いた。
「ロックオン、良い匂いがする……」
「!!」
膝の上に居た刹那がロックオンの首に腕を回し、首筋に鼻を寄せる。甘える行動そのものは猫だが、手に触れる肌の異様な温かさにロックオンは声をあげた。
「せっ…せめて服は着ような、刹那…」
「?」
半ば無理矢理、自分の体から引き剥がし傍に無造作に放られていたワイシャツを刹那に被せる。それでも尚、体を摺り寄せてくる刹那にロックオンは溜め息を吐く。
ロックオンの、受難の日々が始まった。