体を休めたい。刹那は少々重たく感じる瞼を擦りながらそう思った。度重なる仮想ミッションのせいで心身ともにすっかり疲弊しきっている。はあ、と溜息を吐くとぴたりと隣を付いて離れない人物が声をかけてくる。

「今日もハードだったなあ」

色白な肌に柔らかそうな髪をふわりとなびかせてその女性は苦笑いを浮かべる。同じ部屋の住人・ニールを一瞥した刹那はそっけなく「そうだな」と返事をした。

「こう何日もスパルタな訓練が続くと、疲れがとれやしない」

「…ああ」

「こんなコンディションじゃあ出せる実力も出せないしなあ」

「そうだな」

適当に受け流す刹那に構わずニールは話し続ける。始めのうちは鬱陶しく感じてはいたものの、同室ということもあってか徐々に気を許してしまったのか刹那にとってニールのスキンシップは心地良いものになっていた。時たま面倒と感じたり過剰だと思うときはまだあるが。部屋に着くなり「あ〜…」と力の抜けた声をあげながらベッドに沈み込むニールを他所に、刹那はさっさとバスルームに向かう。汗を流して体を休めたい。そう思っている刹那に、ニールが甘ったるい声を出して擦り寄ってくる。年上なのになんとも大人気ない、と刹那は密かに思った。

「なんだよ、一緒に入ろうって誘ってくれたって良いだろ」

「どうして二人揃って入る必要がある」

べたべた擦り寄ってくるニールを鬱陶しく感じながらも無視して歩く刹那。ふくよかなニールの胸が肩にぱふぱふ当たっているが、普段からふざけて当ててきたりしているので慣れている。

「たまには気分転換ってことで、良いだろ?ほら、これ入れて泡風呂にしてさ」

「…入浴剤か?」

ニールが刹那の眼前に突き出した入浴剤は、茶色とクリーム色のツートーンカラーだった。まるでアイスボックスクッキーのような様相だ。

「毎日毎日、同じようなことばっかりしてたら飽きちまうだろ?」

こういう時間で息抜きしないともたないぜ?とニールは刹那の頭に手を当ててわしわしと掻き混ぜた。お陰で刹那の猫っ毛は余計に波立ってくちゃくちゃになってしまった。むすっとして眉間に皺を寄せた刹那を見たニールはやりすぎた、と少々反省したように刹那の髪を撫で付ける。

「ほら、二人で一緒に入れば泡風呂も楽しいだろうし、な?」

どうしても一緒に入りたい、という主張を引っ込めないニールに対して、そもそも俺は泡風呂なんて興味はない、という言葉を飲み込んで刹那はそっぽを向きながら溜息交じりに呟いた。

「入りたいなら、好きにしろ」

「刹那、ありがとな」

「くっくつな」

ニールは満面の笑みを浮かべて小柄な刹那を胸に抱きこむようにしてぎゅっと抱き締めた。年下と一緒に風呂に入れて幸せ、という気持ちを体で表現するニールからは年上の威厳というものを一切感じられなかった。





アイスボックスクッキーのような入浴剤を砕いて湯船にお湯を入れていくと、あれよあれよと言う間に視界は泡一色になっていく。しかも浴室全体にふんわりと甘いココアのような香りが充満してきている。甘すぎる、と感じたのはほんの少しの間だった。何故かニールに髪を洗って貰っている刹那は大人しくこの香りを堪能している。よく嗅ぐと、チョコレートの香りのようでもあった。甘いけれどそこまで主張しない、しつこくないビターチョコレートのようだ。ホワイトチョコレートのような甘ったるいだけの香りだったら直ぐに風呂を出るところだが、この程度の香りだったら寧ろ好みの範疇に入る。程よい強さで頭を掻き回される心地良さから眠気を感じた頃、勢い良く流れるシャワーに泡を流されて刹那は目を開ける。目の前の鏡にはいつもの猫っ毛がしっとりとしていて大人しくなっている自分と、それを見てどこか幸せそうにしているニールだ。ふと振り返ると、刹那同様、髪が濡れているニールに、唐突にこめかみにキスをされた。

「さ、入ろうぜ」

「嬉しそうだな」

「そりゃあ」

一緒に入れたんだしな、とニールは刹那をひょいと抱えて泡だらけの浴槽に浸かる。ざぶん、と浴槽の縁からお湯が溢れ出して流れていく様子を眺めていると、背後からニールがぎゅっと刹那を抱き締める。

「!」

「相変わらず、ほっそいなあ」

お湯の中でぺたぺたと素肌を撫で回すと同時に、ニールはこれ見よがしに胸を刹那の背中に押し付けて、刹那の小ぶりな胸を弄りだす。周りが泡に囲まれて湯船の中が見えないのが不幸中の幸いか、弄られているところを直接見なくて済むことに、刹那は少々の安心を覚えた。が、ニールの手は止まらず弱いところをくにくにと詰る。

「んっ、ニール ぁ…」

「おっぱいが小さいと敏感なんだってな」

「ひゃあ…っ」

脇腹を指先でなぞりながら器用に胸の頂を捏ねられ、刹那は細い体を撓らせた。自分でもわかるほどに勃ち上がった頂を、ニールが巧みに責める。優しく撫でたかと思うと、痛いくらいに抓り上げられて、刹那の体は与えられる快感に従順になっていく。指が肌を撫でる度に体中が粟立って声が抑えられなくなる。空いた手で陰部を広げられても抵抗できずにされるがまま、刹那は身を捩って悶えるだけだ。するりと入り込んで来たニールの指が膣の入り口を執拗に擦り上げるじれったさに刹那は思わず腰を揺らす。

「あっ… やっ、奥…」

「奥が、何?どうした?」

「奥まで、触って…くれ…っ」

「こう?」

「あんっ…」

二本に増やして奥まで差し込んだニールの指を、刹那の肉襞はきゅっと締め上げた。少しイッたか?とニールは意地悪く指を動かして一層責め立てる。すると刹那の体は、一瞬だけ張り詰めて大きく脱力した。指を咥え込んだソコは断続的に蠕動していた。

「ひくひくしてる…」

「いちいち、言うな…っはあ…」

「ちょっとだけのつもりだったんだけど」

刹那が可愛くて我慢できなくなっちゃった、と刹那の耳元で囁くと、ニールは刹那の手を取って自分の陰部へと持って行く。ぬるり、とお湯とは明らかに違う触感のものが指に触れた。驚いて顔を上げると、蕩けた熱っぽい目でニールが訴えてくる。

「刹那に、触って欲しい」





自分のとは違う、と視界の隅でニールのそこを見て刹那は思った。女性らしく茂みはあるし肉感的な柔らかさもある。湯船の縁に腰かけて足を広げているニールの前に座り込んでいる刹那は目のやり場に困って視線を右往左往させる。薄暗い部屋の中でも滅多にないというのに、こんなに明るいところでまじまじと見るのはこちらの方が恥ずかしい、と刹那は頬を赤く染める。目を逸らしたままの刹那に、ニールは笑みを浮かべる。―刹那はいつもされてばかりで、いざ自分がするとなってどうしたら良いのかわからないという状態のはずだ。勝手が分からずあたふたする刹那に手取り足取り教えて、恥ずかしがりながらしてくれる様子を上からじっくりと眺めていよう―と思考を巡らせていた。気持ち良くもなれるし可愛い刹那も見れるしで、ニールにとってはなんとも美味しい状況である。

「刹那ばっかり、気持ち良くなってズルイな…」

「お前が、勝手にしてきたんだろ…っ」

「嫌だったら抵抗ぐらいする癖に」

「…うっ」

いつも俺がしてるみたいにしてくれる?とニールが優しい声で強請ると、動揺して目をあとらこちらに泳がせて蚊の泣く様な声で恥ずかしいから、と呟く。恥ずかしいから嫌だ、と予想通りの返答。

「じゃあ場所変わる?俺が刹那にしてあげるから」

「はっ!?」

「するの、恥ずかしいんでしょ?」

してあげるから俺と同じ格好してね、と続けるニールに「そっちの方が恥ずかしい!」と刹那は悲鳴をあげた。こう言った以上はもう逃げられない。ニールは刹那の言葉を聞いてにっこり笑って一層足を広げる。

「刹那、してくれるか…?」

「わ、わからない…その、やり方が…」

「教えてあげるから、な?」

その場の雰囲気とニールの言葉に圧されて刹那はニールの方へ顔を向ける。自ら足を広げるその姿はなんとも妖艶で、色っぽく誘ってくるようだ。ニールの視線に導かれるように刹那はいそいそと彼女の足元に近づいて、手を伸ばす。

「え、っと…」

「いつもどうしてた?」

「…そ、外の方から…触って…」

「同じように触って…? んっ」

柔らかい陰唇に触れると、ニールは鼻から抜ける甘い声をもらした。ニールは眉を顰めてふくよかな胸をたゆんと震わせて刹那の愛撫を享受している。陰唇を上から下へ指を滑らせるとニールの腰が小さく揺れた。ほんの少し触れただけでここまで反応するニールを見て、刹那は自然ともっと彼女を気持ち良くしてあげたいと体が動いた。ニールが自分にしてくれるみたいに、そっと陰唇を左右に開いて無防備に曝け出された粘膜をそっと舌先で舐め上げる。始めのうちは優しく撫でるだけ、頃合をみてじっとりと責め上げるという遣り方で可愛がられた刹那はそっくりそのままニールにし返す。

「ふ、あっ… ん、せつな 上手…っ」

「んっ…」

ニールは息を荒らげながら、子供を褒めるような仕草で刹那の頭を撫でる。こういう状態でそうやって子供扱いするな、と少々不満げに思った刹那は、陰核を隠している陰毛を掻き分けて包皮ごとぱくりと口に含んでしまった。口の中で器用に包皮を捲りあげて直接陰核を舐め回すとニールは滅多に出さない甲高い声をあげて足を小刻みに震わせて身悶えている。

「あっ せ、つなっ あん」

頭を撫でていた手にく、と力が入った。よほど気持ち良くて力んでしまうのだろうか。髪の毛を強く引っ張られて一瞬たじろいだが、妙な加虐心が芽生えて一層ニールを責め立てる。ニールの陰核を舌で転がし続けていると、刹那は自分の下半身がきゅっと疼くような感覚を覚えた。腹の奥が、妙に苦しい。そっと自分の下半身へ手を伸ばす。つるりとしたそこをなぞって敏感なところを開いて自分が善いように捏ね繰り回し始めると、苦しさはふわりと消えて、代わりに快感が下半身を支配する。腰をうねらせると、ニールは恍惚とした表情で刹那を見下ろして微笑む。

「ふ、刹那我慢できなくなって 自分でシてる…」

玩具持ってくれば良かった、と蕩けた声で言うニール。彼女としては一緒に玩具を使って気持ち良くなりたかったようだが、この状況もなかなか希少で与えられる快感に身を任せている。際限なく一点にのみ加わる快感に、ニールはあっさり気を遣りそうになっている。少々ぎこちさなの残る刹那の愛撫はそれはそれでとても心地良いものだ。変なところで押しが強かったり、不意を突かれて思わず体が嬉しい悲鳴をあげる。刹那は自分の気持ち良いところだけをしつこく弄った所為で、小さくだが何度も達しているようだ。

「刹那、もっとそこ っ舐めて…あんっ」

「ひ、ぅ にーる、いく、」

「いっしょに、な?もうちょっと、強く  あっ」

じゅる、と生々しい音が浴室に響てニールが声をあげるのと、刹那の細い腰が跳ね上がるのはほぼ同時だった。湯船の縁でぐったりと力なく座り込んでいるニールと、湯船の中で未だ余韻に浸って下半身を震わせている刹那。流れてしまったのかそれとも割れて消えてしまったのか、いつの間にかお湯の泡はほとんど見当たらなくなってしまっていた。体が冷え切ってしまったニールは追い炊きをしながら湯船につかって刹那を後ろから抱き締めて耳元で呟く。

「刹那あ…」

「…なんだ」

「凄く気持ち良かった…」

「……そうか」

ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音をたてて刹那に口付けするニールの表情はとても幸せそうで、いつもなら邪険に扱う刹那だったがその表情を見て満更でもない気分になった。こうやって一緒の時間を共有するのも、良いものだなと心の中で呟いた。