ニールの誕生日が、明日だと解ったのはつい先刻だった。偶然船内で擦れ違ったスメラギが「ロックオンには何をあげるのかしら?」という何気ない問いかけに彼女を見遣れば「明日誕生日でしょ、彼の」と言う。刹那はハッとした。誕生日には何か贈るのが世の一般常識らしい。何か、贈った方がいいのだろうか。晴れて恋人同士となったがミッションやら何やらで時間が限られてしまい、肌を合わせたあの日以来二人で居る事が少なかった。今もニールは射撃のシュミレーションをしていて顔を見ることも出来ないのだ。


「…ニール」


「あら、恋する女の子は可愛いわね」


「!!」


誰も居ないと思っていたブリーフィングルームに刹那以外の声が響いた。ぎょっと驚きつつも後ろを振り返って見ればニールの誕生日が明日だと言っていたスメラギが立っていた。


「ミス・スメラギ…何故」


「さっきの貴方の反応が気になって、ね」


無重力空間の中、床を蹴ってふわりと刹那の隣に降り立つ。興味深そうに刹那の横顔を見るスメラギの視線が妙に恥ずかしくて顔を逸らす。自分でも顔が紅潮しているのを感じてまた恥ずかしくなった。


「顔真っ赤ね、刹那ったら」


「放っておいてくれ…!」


「ロックオンにプレゼントを贈ろうか贈るまいかで悩んで悶々としてる感じね。贈るにしてもプレゼントを用意する時間がなくて…兎にも角にも彼に会いたそう」


「なん…っ」


「顔に書いてあるわ」


図星を指されて刹那は更に顔を赤くさせた。プレゼントの件は置いておいてニールに会いたいという部分を的確に示されて刹那は狼狽した。


「こんな所に居たら用意しようもない、その気持ち解るわ」


「何も言ってない」


「刹那、下手な嘘は吐かないで?」


クスクスと笑うスメラギは顔に書いてあるのよ、と目を細めて言う。反論すら出来ない刹那は剥れた表情でスメラギを見上げた。


「そんな顔しちゃ、可愛い顔が台無しだわ」


「可愛くなんかない」


「またそんな事言って…」


髪を撫でれば剥れた表情に照れが加わりなんともいえない表情になってしまった。微妙な顔をしつつも刹那は寂しげな雰囲気を纏う。そんな刹那を見てスメラギは助け舟を出した。


「プレゼント、用意する方法ならあるわよ?」


「え?」


「刹那自身が了承してくれるなら、方法も教えるし私も手伝える…どう?」


無理強いはしないわよ、という優しい言葉に刹那は首を縦に振った。





ニールがシュミレーションを終えたのは深夜近くになった頃だった。緊張しきっていた体を大きく伸ばして解す。こんな時間だと刹那もう寝ているか、と思考を巡らすニール。ふ、と時間が空けば考えるのは刹那の事ばかり。あの小さな体を腕の中に閉じ込めてぎゅうと抱き締めたいと体が疼いた。今から刹那の部屋に忍び込んで一緒に寝てしまおうか――と良からぬ事が頭を過ぎった時、不意に声をかけられた。


「お疲れ様、ロックオン」


「っと、ミス・スメラギ?こんな時間に何を」


「シュミレーション疲れただろうと思って、これ届けに来たの」


はい、と差し出された細身の瓶の中には薄い桃色の液体が入っている。これは、どう見ても。


「酒…?」


「それでも呑んでゆっくり寝て頂戴。明日も頑張ってね」


「明日も、って……ミス・スメラギ!」


スメラギはニールの方を振り返ることなく行ってしまった。何だったんだと一人ごちるニールは手にある瓶を物珍しげに眺めながら部屋の暗証番号でキーを開け入っていく。


「銘柄が書いてない…ったく怪しすぎるだろこの酒」


暗い部屋の中デスクの上に瓶を置いた瞬間、背中にぽすんという軽い体重と体温がぶつかった。一瞬驚きはしたものの、ニールにはすぐ解った。恋焦がれていた刹那だ。


「刹那、お前いつの間に入」


「あ、駄目だ!」


「!」


「前を向いていろ!」


背中にくっついている刹那と顔を見合わせようとした途端、頬に手を当てられ強引に前を向かされる。身長差を考えると刹那は思い切り背伸びをしてニールの頬に手を当てているのだろう。その様子を想像したニールは思わず頬が緩んだ。


「こんな夜中に一体どうした?寝る時間はとっくに過ぎてるぜ」


「っ、子供扱いするな!」


「夜更かしはお肌の敵だって言ってるんだよ」


飄々と刹那を言い負かすニールは未だ前を向いたまま、体温を感じるだけじゃなく顔も見たいと思い始めていた。一方の刹那もニールと同様の心境だったが、今ここで互いが向き合うのは避けたかった。


「あ、の ニール、そのままベッドまで歩いて欲しい」


「んん?なんだ今日はやけに積極的 痛っ」


ベチっと刹那の張り手がニールの背中を叩く。恥ずかしさから顔を真っ赤にしているのだろうとニールは痛みを堪えつつ苦笑いした。


「そのまま、上って」


ベッドの上に上るように指示した後もニールは刹那に背を向けたままの状態で、いよいよニールは焦れてきた。久々に二人きりの時間が出来たというのに…むず痒い感覚に気分が高揚した。再び背中に体をくっつけてくる刹那を不審に思いつつ肩に添えられた手に自分のそれを重ねた。


「今日、ミス・スメラギから聞いた」


「…?」


「ニールの誕生日が明日、だと………それで 時間がなくて」


突然口籠り始める刹那の様子を敏感に感じ取ったニールの鼓動が脈打つ。俺のために何かしてくれるのか?刹那に誕生日を祝って貰えるならなんだって大歓迎だ。その嬉しさから愛しさが募る。


「ミス・スメラギに その、手伝って貰って………」


お菓子でも作ったのか?だとしたらこの状況はおかしい。わざわざ背を向けさせることはない。いくつかの憶測が飛び交うが答えを導き出すには至らない。きっとこういう事をするのに慣れていない刹那のことだ、照れているのだろうとニールは思った。


「…なぁ刹那、振り向いちゃ駄目か?」


「…っ 」


優しい声色にぞくりと肌が粟立った。こんな姿をニールに晒してしまうのかと―不安と期待が交錯する。ニールの為に準備したからには本人に見せなければ意味はない。肩に置いた手をそっと引く。諾、振り向いてもいいという返事だった。衣擦れの音と共にニールがゆっくりとした動作で刹那と向き合い――――息を呑んだ。


「お前…その格好…」


ベッドの上で膝立ちになってニールと向き合っている刹那は胸元から肩紐にかけてと裾元にフリルがふんだんにあしらわれた真っ白なシースルーのふわふわしたベビードールに身を包んでいるのだ。白い布地から仄かに浮かび上がる体のラインがニールをそそった。


「ミス・スメラギが こうすればきっと喜ぶだろうって…」


案の定、顔を真っ赤にしている刹那。こんな破廉恥な格好をするなんて自らが志願したわけじゃないと言い訳をする子供っぽい様子と、身に纏う布の官能さといったらない。疼く体と心、久々の二人きりの空間に嫌でも中心が熱を持った。


「それ、俺のためにか?」


「っ…」


首を縦に振り、そのまま下を俯いてしまった刹那の手を取りちゅ、と可愛くキスをする。その感触にすら敏感に反応する刹那を見遣ってニールは微笑んだ。


「最高のプレゼントだ…」


腰に腕を回して力の限り抱き寄せて己の顔を刹那の胸元に埋める。ふわりと薫る刹那の甘い香りと少し高めの体温、何度触れても細い腰まわり…ニールの熱に拍車がかかる。


「すげぇ可愛い…」


「ひぅっ!?」


鎖骨から首筋にかけてじっとりと舌で舐めてやれば面白いくらいに撓る刹那の体。突然の快感に面食らった刹那だったがすぐにいつも通りの鋭い目つきに変わり声を張り上げる。


「な、何をするっ!」


「何って、ナニをだよ。この状態で何もしないなんて、据え膳食わぬはなんとやらってな」


ちゅる、と舌が降下して胸元を開拓していく。シースルー生地からうっすら垣間見ることが出来る胸の突起に指を添えると腰が小さく揺れた。


「ほら、ここも反応してるし…」


「ぅう…っあ!」


ベッドに刹那を押し倒してしまえばもう逃げることは出来ない。ニールは殊更幸せそうに刹那を見つめてもう一度首筋に顔を埋めた。


<おまけ>

「あ、ぁあっにー る…!」

「着けた ままってのも、悪くないな…っ」

「やら、恥ずか し ひゃぁん!」

「奥のここ、イイんだ?」

「や、ああっらめ…」

「こんな、格好して煽ったんだ、まだまだ…付き合って貰うぜ」