いつもと同じ朝のはずなのにロックオンの気分はいつも以上に晴れやかだった。カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら腕の中に目を遣る。自分の腕の中ですやすやと寝息を立てる刹那がいた。数時間前まで睦みあっていた事実にロックオンの気持ちは静かに高揚していった。愛しい刹那が徐々に己の手でいやらしくなっていく様は酷く興奮した。もっと自分で染めてしまいたい。自分だけに執心させたい。そんな独占欲にも駆られて今のロックオンは刹那一色だ。これではどっちがどっちに執心しているのか解らないが、ロックオンは兎にも角にも幸せだった。


「…、あ」


刹那をもっと抱き寄せようと体を動かした瞬間にロックオンは声をもらした。あれ、何故、いつの間に、どうやって…ぐるぐると頭の中で旋回した疑問は一瞬で瓦解した。二人して泥のように眠っていたのだ。寝てる間にそんな事が出来るほど器用じゃない。


「やべ…柔くて違和感無かったぞ……」


数時間前からロックオンの陰茎は刹那の膣内に挿入されたままだったのだが、弛緩しきった体の所為で気付けなかった。腰を引くとヌルリとした感触と共に刹那の体が小さく動く。シーツを捲って刹那の下半身を見れば、ものの見事に白濁で汚されていたのだった。こりゃシーツやら何から何まで洗濯したきゃなんねぇな、とロックオンはぼやいた。未だ目を閉じて深く息をしている刹那の癖のある髪の毛を慈しむように撫でて、額にキスをする。


「ん、……ぅ」


「せつな」


小さな声で囁くように名前を呼んでも返ってくるのは寝息だけ。額から頬、鼻頭、目尻、唇と順を追って下りながらキスをするロックオン。起きろというサインなのか、快感を喚起させるものではなく優しく触れるだけのキス。幾度となく感じるロックオンの唇にようやく目を覚ました刹那は寝ぼけ眼でロックオンを捉えた。


「刹那、よく寝れたか?」


「ろ、ックオ ン」


仄かに赤く染まる頬は、昨晩のロックオンとの行為を思い出した所為。少し伏し目がちになって、ロックオンの裸体を目の当たりにして、目の遣り場に困って顔を上げてロックオンとばっちり目が合って。益々赤みを増す頬を見てロックオンはウブだな、と微笑む。恥ずかしさからか、ベッドの外へ這い出ようとする刹那を後ろからやんわりと羽交い締めにしたロックオン。引き寄せられた刹那は「あっ」と声を出した。


「逃げるなよ」


「は、離せ…っ!」


「嫌だね」


「ロックオン…!」


クルッといとも簡単に体を反転させて、ロックオンは上半身を起こして刹那の顔をまじまじと見る。さっきと同じように髪を撫でながら呟いた。


「開口一番に、離せ、はないだろ?」


「…、だって」


「まるで俺が強姦したみたいじゃないか」


う、と言葉に詰まる刹那。あまりの恥ずかしさに逃げてしまいたくなっただけだったのに、という言葉が出てこなくて刹那は黙り込んだ。気まずい雰囲気になる前に、何か言わなきゃと思えば思うほど言葉が臆病になる。ロックオンはロックオンで何か悪い事を言ったのかと自分の発言を省みる。もしかしたらこの体勢が気に入らないとか、緩い動作で刹那の上から退こうとした。刹那はそれを見て「あ、呆れられたのかも」と勘繰って一層焦った。ロックオンが行ってしまわないように何か言わないと、何かしないと。体を起こそうとした時、刹那の腰に鈍痛が走った。


「痛っ……!」


「お、おい大丈夫か」


ベッドに沈み込んだ刹那を見てどこが痛いのか聞こうとしたが昨日の今日。なんとなく居た居場所は検討がつく。


「腰か?」


「う、痛…」


腰を擦って痛みを緩和してやろうとするロックオンに、呆れられた訳じゃなかったと安堵した刹那。手を着いているロックオンの手に自分の手を重ねるとやけに落ち着いた気分になった。


「しばらく安静にしてた方が良いな」


「すまない…」


「気にすんなよ。何か欲しいもの、あるか?」


シーツを刹那の体に丁寧に掛けながらロックオンは手際よく服を着る。喉が渇いた、お腹が減った、という欲求よりも先に刹那の口をついて出たのは風呂だった。この気怠さを無くしてくれるのが風呂のような気がしたからだ。ロックオンはじゃぁ風呂沸かすか、と立ち上がったが、刹那にズボンを引っ張られて動きを止めた。


「どうかしたか?」


「ロックオン…、…おはよう」


一拍置いて刹那は少しだけふわりと笑ってそう言った。その笑顔に釣られてロックオンも笑いながら「おはよう」と返した。