ぱりん、と音を立てて足元に転がるカップの残骸を見て刹那の顔面は一気に蒼白になった。


「おい刹那、大丈夫 か……」


音を聞き付けて刹那の所までロックオンがやって来た。今一番来て欲しくなかったのに。刹那の足元には、無残にも砕けたカップ。それはロックオンのもので、普段から愛用していたものだった。


「ロ、ロックオン…すまない…その…」


ロックオンの表情を見れば言うまでも無く、多少なりともショックを受けているような顔をしている。


「手を滑らせた…すまない…」


何も言わないロックオン。彼の作る沈黙の間が重い空気を漂わせている。その沈黙が自分を責めているように感じられて居た堪れなかった。責められるのは状況上致し方ない。何か、何か言って欲しかっただけだった。


「あの、」


「そうか、割っちまったか」


予想に反して柔らかい声。床を見下ろしていた刹那は顔を上げてロックオンを見遣った。ロックオンは刹那の頭に手を置いて髪をくしゃっと掻き雑ぜた。


「人間、誰だってミスはするさ」


徐に床に膝を着いて粉々になったカップの破片を一枚一枚集め始める。


「ロックオン、俺がやるから…!」


自分の不注意で割ったからには自分で始末をしなければ後味が悪い。ロックオンの手を制止させて刹那は申し訳無さそうに言った。


「本当にすまない…」


「気にすんなって」


「でも、気に入ってたんだろう?」


「…ああ。そうだな」


お気に入りを故意では無いとは言え、結果として壊してしまった事には変わりなのだ。刹那は代わりにならなくても代用出来るものが必要だと感じた。


「せめて、新しいものを…お詫びとして、その…」


「だから、気にすること無いって言ってるだろう?」


「しかし…っ」


頑なに遠回しであれ拒否をするロックオンに心の中で、幻滅されたのではないか、嫌われたのではないかと勘繰ってしまう刹那の目は半分潤んでいる。


「何かしないと申し訳がたたない…!」


「刹那」


「何でも良いから、言ってくれ…ロックオン」


「何でも、か」


ロックオンは指先に触れている白い陶器の破片を弄りながら呟いた。拳をきゅっと握って罪の意識と戦う刹那を見てロックオンはこれを口実に滅多に出来ない事が出来るかも知れないと思い付く。


「じゃぁ、刹那。やって欲しい事がある」


「っ…何でもする」


目尻を赤くして内容も聞かずに承諾した刹那を見て、ロックオンは綺麗に口元を緩ませた。





「ロックオン…っ」


「してくれるよな?」


ソファに腰掛けたロックオンの足元に座り込んだ刹那の眼前にはバックル。ロックオンの手が刹那の手を包み込んでバックルに指をかけさせている。この体勢、この状況で何をしれば良いのか解らないという訳では無い。体験が少なくてもそれくらいは解る。そして、手の下で徐々に大きくなるロックオンの熱に気が付いていない訳でもない。


「…っ!」


羞恥に顔を赤く染めながら、覚束ない動作でバックルからバンドを外し、ジッパーを下げて前をくつろげる。眼前に現れた黒い下着に肩を震わせながら緩慢な動作で下着に指をかける。指先に触れたロックオンの腹部がやけに温かく感じられた。


「や、やり方を…知らないんだが…」


「ん?じゃぁ教えてやるよ?」


だから早く先に進もう、と言葉に意味を込めて続きを促す。下着を引き下げれば、半勃ちのロックオンの陰茎が刹那の目の前に曝け出された。まじまじとそれを直視したのは初めてで刹那は更に顔を赤らめる。触るのを躊躇していると、ロックオンが刹那の手を取り己のそこに手を持っていった。


「触ってくれないと、始まらないぜ?」


「…あっ…」


何でもする、と言ってしまった手前もう後には引けない。それは刹那自身がロックオンよりも身に沁みて解っている。だが、如何せん羞恥心が先に立って行為を進め難い。恥ずかしさから震える手を、緩慢な動きで竿全体を包み込んでゆるゆると上下させた。


「!」


その途端に大きな反応を示すロックオンの陰茎。完全に勃ち上がって熱を帯びる。顕著に表れる反応を見て、刹那は奇妙な気持ちになった。恥ずかしい行為をしている筈なのに、嬉しいと感じるんのだ。


「ロックオン、次 は…」


「じゃぁ、口使ってくれるか?」


手に収まりきらない陰茎の先端、亀頭に恐る恐る舌を這わせる刹那。触れるか触れないかの微妙な塩梅で舌を引っ込める。何回かそれを繰り返した末にゆっくり、亀頭を口に含んだ。


「はぁっ…」


掠れた溜め息がロックオンの口から洩れた。重なっていた手は何時の間にか頭に添えられて時折、髪の毛をくしゃりと掴まれる。感じているのだろうか、刹那が不安げに見上げればロックオンは微笑んだ。


「ったく…エロ過ぎ…」


「!」


ロックオンから見れば刹那は自分のものを咥えた上で上目遣いをしている事になる。男性として非常にそそられる角度だったらしい。口内で大きさを増す陰茎に愛おしさを感じた刹那は少し奥に咥え込む。じゅる、と湿った音が木霊したのと同じくして陰茎を唾液が伝い掌の摩擦を滑らかにする。


「は、口 小さいんだから、無理すんなよ?」


「んんっ」


息苦しさはあった。でもそれよりもロックオンが感じてくれるならと刹那は口を必死に動かした。巧みさはないものの、これから自分色に染めていく楽しさがあるとロックオンは思った。


「口に出して、良いか?」


「んふっ…」


不味かったら出すんだぞ、と告げてロックオンは我慢する事なく刹那の口内に吐き出した。小さく跳ね上がる陰茎を口で感じる刹那は精液の味に眉を顰めて唸る。口に手を当てて目をぎゅっと瞑って忙しなく息をする。


「刹那、出せ」


「むう…」


「あ、おい刹那!」


嫌、と首を横に振った刹那は肩を震わせながら数回に分けて嚥下した。その様子に目を剥いたロックオンは刹那を腕に閉じ込めて力の限り抱き込める。


「刹那…っ」


「ロックオン…」


下心はあったがここまでさせる気はなかったロックオン。健気に尽してくれた刹那を、ただただ抱き締めた。