※ニル♀刹♀です
※百合です。苦手な方はバックプリーズ


今月もまた鬱陶しいものが来るな、とニールはシーツに包まりながらぼんやりと考えた。体を小さく丸めて膝を抱え込んでいるため、寒くはないのだが無性に心細い。灯りを落とし静まり返った薄暗い部屋の中、寝返りをうった。シーツとシーツが擦れる衣擦れの音を最後にまた部屋は静まり返る。

「……寝れねえな…」

つきのものが来る少し前はいつもこんな風に心細い思いに駆られる。クルーに会ったり話をするだけでは埋まらない、常に付きまとうどこか虚しい気持ち。それを紛らわそうと会い、話す以上のスキンシップをしたいと渇望してしまう。愛する人に傍らに居て欲しい、抱き締めたり、ぬくもりを感じたりしたい。悶々と湧き上がる切望の末、むくりとベッドから起き上がりベストを羽織って、部屋を出た。ドアが閉まりきる前に『ロックオン!ロックオン!』とハロが呼んでいたが、気に留める余裕はなかった。





「何だ」

「あー、別に用ってほどじゃないんだけど…」

いつも通りの冷たい反応に慣れている筈のニールだったが、刹那のそっけない対応に落ち込み気味の気持ちに追い討ちを掛けられた。今から甘いようと考えていた恋人にこうも邪険に扱われるとはなんとも虚しい。

「用もないのに来るのか」

「いや、用と言えば用なんだけどな」

甘えさせてくれ、とは口に出し難い。ましてや「刹那とイチャイチャしたい」とか「性的な意味で一晩を共にしたい」などとは到底言えない。なにか口実を考えないと、とニールが頭を捻っていると刹那は溜息を吐きながら半開きだったドアを開け放った。さっさと入れ、と呟いて踵を返す。意味もなく部屋を訪れることはあったが、締め出されたりニールが無理矢理刹那の部屋に押し入ったりすることが多かった。こんな風に刹那が入室を促すことは珍しい。ドアの前でぽかんとしているニールに刹那は呆れながら声をかける。

「いつまでそうしている」

ドアが閉まらないだろう、と言うと刹那はベッドの端に座り端末に目を落とした。何を見ているのかここからでは見えない。刹那が熱心に何を読んでいるのか興味があったが、なにより恋人と密室に二人きりという状況がニールには嬉しかった。ベッドにごろんと横になって猫っ毛の刹那の髪を指先で弄りながら、体を密着させる。服越しに感じる体温が心地良い。

「そんなにくっつくな」

「良いだろ別に」

「…鬱陶しいな」

「そう言うなって」

座っている刹那の背後から腰周りにしがみ付く。自分よりずっと細い腰や華奢な肩をベタベタと掌で撫で回すといくらか気を紛らわすことが出来る。良いな、このままここで寝ちゃいたいな、とぼんやり考えながら刹那の体を撫でる。直線的なラインの体を持つ刹那もあと何年かすれば良い肉つきになりそうなんて妄想しながらつい、と指先で脇辺りをなぞると、刹那は大きくびくん、と体を弾ませた。そっぽを向いたままだった刹那が突然振り返って、鋭い目つきで睨んでいる。

「邪魔をするな」

「…すみません」

怒られた、とニールは膝を抱えて寝返りをうつ。しかし、じっとしていられるのもほんの数分。やはり刹那の体温を感じたい、とそっと身を寄せる。腰周りにべったりと腹部を密着させて、手持ち無沙汰な手を刹那の膝に置く。一瞬じろ、と見られたが邪魔してない、と目で訴えて瞳を閉じる。良いじゃないか、ちょっとくらいぎゅってしたって。ちょっとくらい体に触れたって。些細なことがきっかけでニールの気持ちはどんどん落ちていく。恋人の体に触れて戯れて何がいけないんだ。好きな人と触れ合いたいと思って何がいけないんだ。ぎゅっと抱き締めて肌を合わせて気持ち良くなりたいと願ったって良いじゃないか。無防備な寝顔が好きでも、良いだろう。そんなつれない態度を取らないでくれ。ずっと触れていたいんだ。ぎゅっと抱き合ってまどろんだり、一緒に出かけたりしたい。思考がぐるぐると回り始めて支離滅裂を極めようという頃、唐突に顔を何かで突かれてパッと目を開ける。刹那が指で、額の真ん中辺りを押している。

「…眉間に皺が寄っている…」

「え、嘘」

「人の部屋に来ておいてそんな表情(カオ)をするな」

いつの間にやら難しい顔をしていたらしい。再び端末に目を戻す刹那の服を掴んでニールは一際甘えた声を出した。

「ねえ刹那、構ってよ。人肌が恋しい」

「構っている」

「くっついてあげてるだけじゃ構ってるって言わないんだけど」

「…っち」

「舌打ちすんな!」

面倒くさい奴だな、と言わんばかりの表情を浮かべて刹那は盛大に舌打ちをした。

「今は構ってやれない。読み終わるまで待て」

そういって視線を逸らす刹那の横顔を、恨めしそうにニールは見上げる。年下に適当にあしらわれて、威厳がないなあとむくれるが、そんなこと今はどうでも良い。ただ刹那と一緒にいて体温を感じられるだけで良い。そっと、刹那の邪魔をしないように端末を持っていない方の手を握って指を絡ませる。しっとりとした心地良い柔らかさが伝わる。刹那が少々訝しげに、こちらを見遣る。

「手、繋ぎながらだってそれ読めるだろ?」

「…はぁ、」

何度目かわからぬ溜息と一緒に、刹那はニールの手をぎゅっと握り返した。



(君の体温で眠りに就く)


しっかりと手を握ったまま小さく寝息を立てるニール。安心しきっているようで名前を呼んでもぴくりとも反応しない。ベッドを占領された上に手を繋いでいる所為で身動きの取れない刹那は深く溜息を吐いて「面倒くさいやつだな」と呟いたが、ニールにそっとシーツをかけた。