「刹那、正直に答えろ」

「何だ」

「お前酔っ払ってるだろ」

「酔ってない」

「嘘吐け」

刹那の手に握られているドリンクボトルの中身は柑橘系のサワーだ。アルコール度数の高いものは翌日に響くだろう、と低度数のものを買っておいたのがよくなかった。

「あのな、18になるまで酒は飲んじゃいけねえの」

「クルジスではそんな決まりはなかった」

「じゃあ今から適用する。覚えとけ。あと勝手に人のもんを飲むな」

アイルランドでの規制などここでは通用しないのだが、刹那のお守り役のニールとしては刹那に対しては親のように言ってしまう。“親のように“とは言いつつ二人は恋人であるのだが、まあそれとこれとは話は別である。

「ほれ返せ」

「あ」

刹那の手の中にあったボトルを毟り取ったニールは溜息を吐いた。中身がほぼ空に近い。酒は既に四分の三以上刹那の胃の中に収まっていることになる。

「ったく慣れないもん一気に体に入れると響くだろうが」

「……」

「とりあえず水飲んどけ っておい!」

差し出したボトルを受け取る前に、刹那の体が横に大きく傾いだ。椅子の上からベッドの上に転がっただけだったが突然の異変にニールは肝を冷やす。急性アルコール中毒にでもなったのか!?とベッドの上で脱力して伸びている刹那を仰向けにして顔を覗き込んだ。が、一寸前の心配は杞憂に終わる。

「…クラクラする…」

「そりゃあんだけ飲んでりゃ酔うわな」

酒を多量に摂取したせいで刹那の頬は赤く染まり、猫目の瞳はまどろんでいるようにとろんと蕩けている。そしていつもより体温が高い。首筋に手を当てると、熱でもあるかのような熱さだ。汗で額に髪が引っ付いている。その様子が、色っぽい。無意識のうちに、唾を飲み込む。よく考えたらご無沙汰である。誘ってる訳じゃないよな、と邪な考えがニールの脳裏を過ぎる。

「いやいや、酔ってるだけだし…」

「?」

酔っ払い相手に欲情してどうする、と鎌首を擡げようとする本能を叱咤して刹那の介抱をする。ボトルを差し出すと、酷く緩慢な動作でそれを受け取ったが中身が飲まれることなく、刹那の火照った頬に当てられて彼女が冷たさを堪能しているだけになっている。

「こら、早く飲め」

「飲んでる」

「飲んでねえだろ」

やっぱり酔ってる。駄目だコイツ早くなんとかしないと。普段がああ頑固なものだから、酔ったらやはり一層頑固にでもなりそうで一抹の不安を覚えた。酔っ払いを相手にするのは嫌だが、相手が刹那なら話は変わってくる。が、面倒だということには差異はない。複雑な心境の中、さてどうしたものかと考えあぐねていると、先ほどより刹那の発汗量が尋常でないことに気がついた。

「おい。大丈夫か」

「暑い…」

「ちょっと脱いだ方が良いな」

お守り役じゃなく、赤ん坊のお守りをする親そのものみてえだなと半ば呆れながら刹那の服を脱がせた。が、こんなに汗かいてるんだし厚着してるのも良くないだろ、と良かれと思ってやったことが裏目に出た。キャミソール一枚の薄着になったために細い体の線が余計に強調されて、押さえ込んだ気持ちが再び湧き上がりそうになる。―馬鹿だ、俺は馬鹿だ。墓穴掘っちまった。―情事の最中のような表情に、脂肪が少ないなりにめりはりのある肢体、更にそれに拍車をかけるように(ニールが元凶なのだが)肌を晒しているこの状況にニールの我慢がいつまで続くのか。ただ単に時間の問題であった。

「せっかく我慢してるのにさっきの努力が水の泡じゃねえか」

頭を抱えて己の行動を悔いているニールの横で刹那が小さく身じろいだ。うんうん唸っているニールの腕を指で突いて、気だるそうに名前を呼んだ。

「ニール」

刹那は、頬に当てていたボトルをニールの方へ差し出して言う。

「飲ませてくれ」

ニールはもう駄目だ、と呟いた。





抵抗の色もなく、喉が動いた。冷たい水が口の中から出て行くのを確認して、刹那の様子を見る。腕の中で大人しくされるがままになっている様は子猫のようだ。口を近づけると性急に唇を重ねてきた。また水が貰えると思って舌を差し入れてきたものの、生憎口には含んでいない。目当てのものがないと気がついて、眉間に皺を寄せて舌を引っ込ませようとしたが、ニールはそれを許さない。唇を無理矢理押し開けて、執拗に舌を吸い上げる。あまりに長く続く接吻に、嫌々と首を振ってどうにか振り切った刹那は必死に呼吸を繰り返した。長時間水の中に潜っていたかのように肩で息をする。

「ぷは、」

「体熱いな」

どこに触れても熱を持った刹那の体は、汗でじっとりとしている。頬から耳、首にかけてほんのり桃色になっている。十分にアルコールが体内に巡っているのだろう。無抵抗な刹那可愛い、と呆けていると腕の中の酔っ払いはニールに寄りかかってうとうとし始めたのだ。ちょっと待て!とニールは刹那の肩を持って前後に大きく揺さぶって声を荒らげた。

「おいおいおい、寝るな!」

「…んっ?」

「期待させといて先に寝ようとするな!」

「機体?」

「このガンダム馬鹿」

酔っ払ってもガンダム馬鹿は健在かと半ば感心しそうになったが、この状況下でそれを発揮されても意味がない。間抜けた雰囲気になってしまったが相手がへべれけなだけに気にしても無駄なだけだ。赤子を寝かしつけるように簡単にベッドに押し倒すと、刹那の残りの服を脱がしにかかる。その間にも就寝の体勢に入ろうと、刹那は枕に顔を埋めている。酔ったらそういう気分にならないのがまだ子供ということなのか。何にせよ盛り上げるだけ盛り上げといて、ハイお休みなさいと寝かせる訳にはいかない。襲うまいと我慢していたニールをその気にさせたのだから、責任は取るべきである。

「寝れると思うなよ?」

「っ!!」

ショーツを一気に膝まで引き摺り下ろすと、刹那の上に馬乗りになって足の間に手を差し込んで目当てのそこへ触れる。性急かと一瞬思念したがぬるりとした感覚に「酒は偉大だ」、と軽い興奮を覚えた。大の男が自分の上にいるせいで身動きのとれない刹那は、敏感な部分に触れられる度に体を大袈裟に引き攣らせている。必死の抵抗も、ただニールの腕を押し退けようと押さえているだけなので意味はないに等しい。

「なんか準備万端なんだな、刹那」

「い、弄くるな…っ」

「こんなに濡れてるのによく言う…」

「濡れてな…っ」

口答えする刹那を黙らせるより体に聞いた方が早い、と言いたげにニールはさっさと中に指を滑り込ませた。とぷんという音が聞こえそうなほどにぬかるんだそこはすんなりとニールの指を咥え込んだ。傍目には幼いように見えるその部分は十分に成熟に向かっている。粘膜をなぞるように指の腹を滑らせると、それに応えて刹那の腰が大きく戦慄く。

「ひゃ…あっ…」

「ん、いい反応」

腹部の内側を探られているくすぐったさに、鼻から抜けるような甘い声を漏らす。目元を潤ませてニールを見上げる仕草が、酒の効果とわかっていても腰にクる表情だ。さっさと進めてしまいたい一心で刹那のショーツを脱ぎ取って膝を割る。足を投げ出すようにして脱力しているから、刹那はニールの懐への侵入をあっさりと許した。

「嫌々しなくて、今日はいい子だな?」

「なんか、気持ち良い…から」

ほんの少し恥ずかしそうにしながらも、普段なら言いもしないことを自然と口にした刹那に、ニールは目を剥いた。可愛いこと言ってくれる。どうしてくれんだよ、と湧き上がる欲望に苦笑いを浮かべる。体が正直なのはニールも同じである。

「 ニール、早く」

「いつもそうやって意地張らずに言ってくれたら大満足だな」

でも抑えが利かなくてキツイかも、と想像する。刹那がツンツンせずに甘えてきたらそれはそれは可愛いだろう。我慢しようにも出来ないんじゃないか、とぼんやり思う。

「酔っ払ってる刹那も悪くないなー…」

非日常的といえる刹那の態度を心地良く感じながら、ニールは徐に腰を進めた。余程興奮していたのか、刹那のそこを押し広げるようにして徐々に侵入していく。なかなか収まらない。じれったい動きに刹那の陰部がきゅんと収縮する。押し進める度に毎回そうなるからもう小さくイってるらしい。

「ふ、ぅ ん…っ」

「あつ…」

刹那の中がとても熱いことに気が付いたのはすんなり収まってしまってからだった。隙間なく包み込む粘膜が、人肌とは思えないほどの熱を持っているように感じる。熱い上に動くのが少々億劫になるほどに締め付けてくるそこに、気を張っておかないと持って行かれそうになる。

「あー ヤバイ、きもちいー…」

「はぁ…あん… や、やだ…っ」

ゆっくり腰を引くと、離すまいと刹那の肉がきゅっと締め上げてくる。意図して出来る動きではないのだが、こういう反応をされるとどうしようもなく愛したくなる。もっと啼かせたくなる。ニールは腰を強引に刹那に打ち付けて一層深く繋がる。

「―っ!」

ニールの唐突な動きに、喘ぎ声は声として発せられずただの吐息になってしまった。刹那は内臓が大きく揺すられているような感覚になっているようだった。空いた手で下腹部をそっと押さえて、過度の快感に飲まれないように必死になっている。

「その格好エロいなあ…」

「ひあっ!」

また酒を飲ませた上でこういうことしても良いかもな、と喘ぐ刹那に言う。勿論返事など帰って来ないのだが、乱れているその姿が諾の返事であると都合の良いように解釈してしまえば良い。本性剥き出しになるし、アルコールって偉大だなとニールはことの顛末に味をしめた。素直に求める刹那を毎回拝めるなら酒与えても良いかも、とあるまじき方向へ思考が飛んでしまっている。とはいえ先ほど18歳になるまで酒は禁止だと言ってしまった以上、ほいほいとやる訳にもいかない。

「ま、いっか。刹那が18になるまでのお楽しみで」

「ん、うっ…ぁあ…」

色っぽいこの刹那をよく目に焼き付けておこう、とニールは刹那に圧し掛かって激しく動いた。