harem.2





昼下がりの少し眠くなるような頃合いに、伏見はなんとなくコーヒーが飲みたくなった。たいていこういうタイミングには秋山がなにかしら差し入れてくれるものだったのだがしかし今日秋山は非番だ。しょうがないかと伏見は自分でいれてしまおうと給湯室へ脚を運ぶ。

「えっ」
「あ、」

給湯室には先客がいた。弁財だったのだがなんだか驚いた様子でわたわたしている。なんだどうしたと手元を見ると、どうやら一回使ったカップにそのまままたコーヒーを注いでいるらしい。伏見はべつになんとも思わないのだがしかし弁財はどうにもはずかしいようで耳を赤くしている。

「あ、秋山には、黙っておいてください」
「は?なんで」
「いや、あいつ俺が外でこういうものぐさなことするとこう、うるさいので…」
「ものぐさなのか、おまえ」
「ものぐさなんです」
「見えないけど」
「一応取り繕っているので」

弁財の手元をみると沸かしたてらしいお湯をドリッパーにそそぐところだった。

「じゃあ俺のもいれて。ドリップで」
「え、あ、はい」
「ドリッパーはべつにいちいち洗わなくてもなんも言わねーから」
「え、あ…あー…」

弁財がちいさくなる。これは普段秋山にかなりびしばしと指導されているに違いない。小姑のような男だ、と伏見は思った。これを秋山の前で言ったら秋山はきっと泣き出してしまうだろうけれど。しかしそういえば伏見はこうして狭い場所で弁財と一緒になるという機会はあまりなかった。普段秋山をひっぱっていくことが多いのでその身長に目線が慣れてしまっていたのだがしかし、弁財は背が高い。首が痛くはならないがなんだかむず痒い身長差がある。

「あの」
「なに」
「ここでお待ちにならなくても席までお持ちしますが」
「え、あ、いや、お前身長高いなと思って見てた」
「え?あ、でも日高とか加茂の方が高いですよ。あと多分五島も…」
「ああ、あそこはエヴァンゲリオンだからな。五島や加茂はともかく日高はそろそろ目障りだな」
「…ふっ」
「なんだ」
「いえ、おかしくて」

弁財は少しすると「はい、できましたよ」と伏見にカップをわたした。ここで秋山なら「席へお持ちします」とそのまま持っていくだろうにこういうところ弁財はたまに抜けているというか気が回らない。伏見はしかしまぁいいかとそれをはしたなくその場で一口のんで、なんだか気の抜ける味がするなぁと思った。そうだ、ものぐさの味がする。


END

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