harem.1




「なぁなぁ布施ー今日の伏見さんのパンツ何色だったー?」

今朝は伏見の着替えシーンに立ち会うことができなかったらしい日高がしょぼくれながら布施に尋ねた。ちなみに伏見は席をはずしているとはいえ場所はオフィスのど真ん中である。ほかには聞こえないような音量とはいえ布施は溜息をついてから「ネイビー」と答えた。

「ちなみにブラジャーは黒だった。上下くらいはそろえてほしい」
「そういうものぐさなとこがまた風情があっていいんだってー」
「ていうか日高お前毎日のように伏見さんのパンツチェックすんのやめろよ。ストーカーみたいだぞ」
「まじで?ストーカーになれば毎日伏見さんのパンツチェックできんの?俺ストーカー目指すわ」
「そうか。俺お前と友達やめるわ」

日高の単細胞な上に筋肉がつまっているらしい脳味噌には布施の忠告は少し難しすぎたらしい。日高は「そうかーネイビーかー」とむふむふしだす。女っ気が足りない職場というのはいつでもしょっぱい味がしていけない。布施はそろそろ道明寺と組んでどこかと合コンでもとりつけようかと考えた。その時はまず日高をはずすことから考えなければいけない。顔と体と声ばっかりいい日高を合コンなんてものに誘ってしまうとだいたい布施が目当ての女の子はかっさらわれてしまう。しかもヘタレなものでワンナイトラブどころかメル友にすら発展しない。発展したところで中身の残念さを露呈して関係は終了だ。布施と道明寺は日高を密かに合コンクラッシャーと呼んでいる。

「あーでも伏見さんもっとこうピンクとか水色とかさーかわいいかんじのさーふりっふりの下着つけてくんないかなー俺そしたら緊急抜刀しちゃうなーっと」

日高が意味不明な呪文を唱えながら伏見に提出する報告書を作成していた。語尾を言い終わるあたりに男らしい騒音を立てて伏見がオフィスに戻ってきた。どうやら宗像のところへ行っていたらしい。眉間の皺が三割増しなうえに舌打ちでリズムを刻んでいる。ああこれは重症だ。布施は関わり合いにならないようにしようと思いつつ、席に戻ってから臆面もなく首のとこからシャツに片手を突っ込んでブラ紐を直しているらしい伏見を見て溜息をついた。布施の好みはずり下がったブラ紐をむずがゆそうにしながらもしかし人前ではそれを直せないようなつつしみ深い女性だ。ついでに下着は上下そろっていたほうがいい。それから布施は日高の呪文を思い出して、「いや伏見さんに着せるなら黒の総レースとかTバックとか紫系のドエロいやつだろ。まじ日高伏見さんに夢持ちすぎだろう」と頭の中で突っ込みをいれた。知らないうちに突っ込みをいれられた日高は「よっしゃできたっ」と推敲もせずにその報告書を伏見のもとへ持っていく。布施には先が見えてしまって「あー馬鹿やろうー」と溜息をついた。

「…日高」
「はい?」
「お前ピンクとか水色とかのフリフリな下着が好きなのか?」
「え?なんでわかったんですか?」
「いや、書いてあるから」
「えっ」

日高が伏見に提出した書類を読み返してみるとなんということでしょう、さっきの妄想の片鱗が報告書にそのまんま映し出されていた。伏見という単語がはいっていなかっただけましだがしかしこれはいけない。日高は「すみません!!書き直してきます!!」と頭を下げる。伏見は真顔だ。大声で罵倒されるよりなんだか怖い。真顔にちょっと困ったような日高から距離をとるようなそんな雰囲気も出してくるから日高はちょっと泣きそうになった。

「いや女装とかそういうのはほら個人の趣味だからなんともいえないけどこういうのは気をつけろよ」
「えっ」
「…さすがに…ちょっとひいたわ…」
「えっ」

後ろでは布施がこらえきれずに肩を震わせている。呼吸困難一歩手前だ。日高は自分が肩のあたりからさらさらと砂になっていくような感覚に襲われて、否定もできずに突っ立っているのみだった。世の中日高に甘くない。


END


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