ぜんぶ溶かしてぜんぶ教えて






「アイスクリームが食べたい」

弁財が何気なくそういったとき、日高は今時「アイスクリーム」だなんてながったらしい呼称をつかう人がいるんだなぁと思った。夜中だった。英語で言うとミッドナイトだ。日本でわざわざミッドナイトだなんて言い方をする人は外国かぶれのちょっとおかしい人だけだ。だから日高は「夜中ですよ」と言った。弁財はもういちど「アイスクリームが食べたい」と言った。

「…太りますよ。もう若くないんですから」
「日高、お前のたぷたぷした脇腹にだけは言われたくない」

弁財は「俺は食べても太らない」とぼやきながら日高の脇腹をつついた。すこしたぷたぷしている。プロボクサーでも鍛えるのが難しい場所だ。日高はプロボクサーではないのでたぷたぷしてしまっている。ジーンズをはくと少しだけたぷっと肉が乗ってしまうところだ。日高は少し鼻の頭に皺をつくった。

「ええ俺の脇腹はたぷたぷしていますとも。腹筋は割れてますけどね!」
「俺の腹筋は割れていないけれど無駄なぜい肉はついていないかな」

弁財は自分の脇腹をつまんでみてだいたい皮なのをたしかめた。そうしてから、また日高の脇腹をたぷたぷしはじめる。お気に召したのか嫌がらせなのかわからない。

「なんでそんな機嫌悪いんですか」
「俺はまだそんなに年寄りじゃない。少なくとも加茂よりは」
「加茂さんの悪口はそこまでだ!」
「敬語」
「こういうときばっかそうやって先輩ぶる」
「先輩だ」
「へいへい」
「日高アイスクリーム」
「俺はアイスクリームじゃありません」
「日高がアイスならよかったのに」
「ひどい!」
「アイスクリームが食べたい」
「え?俺が食べたいんすか?」
「…アイスクリームが食べたい」

日高は「あーもうこのひとはこれだからもう」と溜息をついて「はいはいわかりましたよ買ってきますよ買ってくればいいんでしょうちくしょう弁財さんの脇腹がたぷたぷになる呪いかけますからね!!」とぼやきながら立ち上がった。部屋着ではさすがにあれだろうとスウェットを脱いで適当なジーンズにはきかえる。上はそのままでいいかとそのジーンズに薄っぺらな長財布を突っ込んだ。

「アイスなに味がいいんですか」
「…ハーゲンダッツのバニラ」
「へいへい」

日高が後頭部をがしがしとかきながら部屋を出ようとするとなぜかどうして弁財もついてきた。

「え?」
「え?」
「いや、なんで弁財さんもくるんですか」
「アイス買うから」
「いやいや俺をぱしろうって魂胆だったんじゃないんすか」
「いや一緒に行こうと思って」
「はぁ、そう、ですか」

日高は「あーもうこのひとはほんとにめんどくさい」と鼻の頭を赤くした。ならはじめから「一緒にコンビニ行こう」と言えばいいのに。弁財はまた日高の脇腹をたぷたぷしはじめる。日高はそのたぷたぷしやがるにくたらしい指をちゃんと捕まえた。コンビニまでの道のりがなんだか急に短くなった気がした。


END


さとねさんへ。
なんかわたしの日弁らしくなくなってしまったからクレーム受け付けるよ。
なんなら書き直すから。
日高の脇腹をたぷたぷする弁財さんがかきたかっただけのはなし。

title by 深爪

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